司法修習生Higeb’s blog

68期司法修習生によるブログです。法律の勉強法・基本書・参考書などの司法試験ネタや勉強ネタを中心に書いていきます。

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知識のアップデート

2015年12月に弁護士登録し、昨年には独立しました

その間、行政不服審査法の改正と施行、相続法改正と施行、そして債権法の改正と施行という大きな法改正が目白押しでした。

そのため、知識を全面的にアップデートする必要を感じ、基本書を丹念に読み込むという作業を行うことにしました。そのため、本ブログも更新を再開します。

更新の基本方針は、今回の知識のアップデートでの知見について、なるべく司法修習生当時に書いた記事に補記する形として、司法試験を目指す学生さんや司法修習生の方に少しでも役に立つようにしたいと思います。

また、主に司法修習で行う事実認定論等については、新たな投稿を作成して充実を図ろうと考えております。

民訴法で躓いた人の勉強法

司法試験では民訴法は独立の科目である上、民法の出題は紛争=民事訴訟を前提としており、会社法も会社訴訟=民事訴訟を前提とし、憲法行政法も具体的出題は行政訴訟の場面が多く、行訴法7条により基本的に民訴法に定める手続によることから公法系・民事系に全て関わる重要科目です。更に手続思考の基礎であることから、刑訴法(刑訴を通じた刑法も)との相互理解の重要性も見逃せません。

私は、「民事訴訟法を制する者は司法試験を制する」と考えています。

 

したがって、民訴法を得意にすると司法試験に極めて有利です。

民訴法を深めるー高橋・重点講義と判例学習を同時になどで「高橋・重点講義(上) 」「同(下) 」を使った勉強を勧めているのはそのためです。

 

しかし、民訴法はそもそもとっつきにくい科目であり(古くは「眠訴」と揶揄された)、民訴法のとっかかりで躓いてしまっているロー生は極めて多いのも事実です。

実は私も民訴法は最終的には得意科目・得点源になったものの、勉強の初期ではものすごく苦労した1人です。

 

そこで民訴法に躓いてしまった人の勉強法の視点について、以下書いておきます。なお、私自身が試行錯誤したため、少し雑多な視点となっています。したがって、下記が全部必要というわけでなく、自分に有益と思った視点をつまみ食い的に参考にして下さい

1.民法の理解を早急に

民事訴訟は紛争が生じた場合に、民事実体法に従った法的判断を下すための手続なので、民訴法の勉強は、民事実体法、特に民法の理解がある程度深まっていないと理解の入り口にすら立てません。

ロー生は1年生一杯かかって民法の講義を受ける一方、早い学校では1年後期、遅くとも2年前期には民訴法の講義を受けざるを得ないため、民法の理解があまり出来ないままに民訴法を学び、訳がわからず破綻する、というパターンが発生しがちです。

 

したがって、「急がばまわれ」ではありませんが、民訴法で躓いている人は、まずは、民法の勉強に集中したほうがいいと思います。目安はいつものように「択一過去問で6割以上」解けるようになってから、民訴法の勉強に手を付けたほうがいいと思います。

 

2.要件事実論の基礎の基礎を大体知っておく

現在、司法試験受験生の民訴法の基本書シェアNo1は、藤田広美「講義 民事訴訟 第3版 」
だと思います。私も最終的には高橋・重点講義を基本書とすることを勧めますが、同書を最初から基本書に出来る訳はないので、その前の基本書としては藤田・講義 が最適だと思います。

 

同書は要件事実の説明がかなり前半でなされるのが特徴であり、要件事実「で」民訴を学ぶ」というスタンスの基本書と言っていいと思います。藤田・講義を度外視しても、要件事実「で」民訴を学ぶという姿勢・視点は学習の入り口から応用に至るまで極めて重要です。詳しくはリンク先のエントリを参照して下さい。

 

したがって、民法をある程度理解した上で「要件事実『論』の基礎の基礎」を「大体知っておく」ことが、民訴法の勉強を始める上で極めて重要です。

そのために、民訴法の勉強を始める前に岡口基一要件事実マニュアル 第1巻(第4版)総論・民法1 」第1編・総論を読むことを強くお薦めします。なお、要件事実の基礎の基礎を学ぶため、というと岡口基一要件事実入門 」、同「要件事実入門 初級者編を勧める人も多いのですが、私は「入門」はかなり難しく、「初級者編」はちょっと淡白すぎる、というのが感想です。また岡口・マニュアル1・第1編・総論は、民法と民訴法の架け橋的な論述であることが大きな魅力です。

 

ただし、この段階で「要件事実を極めよう」とは思わないことが大事です。要件事実は民法と民訴法をしっかり理解してこそ深く学べるものなので、この段階では「基礎の基礎を大体知っている」程度で満足すべきです。(もちろん要件事実の勉強は地道に続けて下さい)

 

3.民事訴訟のイメージをつかむ

民訴法・刑訴法に共通して言えるのですが、手続法は諸概念をバラバラと読んでも全く理解できません。手続の進行に従って、諸概念やその相互関係を理解することが大事です。

しかし、民事訴訟は1回の期日で終わることは無く(被告欠席→擬制自白パターンは別)、しかも弁論準備手続は非公開であるため傍聴しても中々イメージし辛く、手続きの進行に従って諸概念を理解することに壁を感じるロー生がかなりいます。

 

そのため、木山泰嗣「小説で読む民事訴訟法―基礎からわかる民事訴訟法の手引き 」「小説で読む民事訴訟法〈2〉より深く民事訴訟法を知るために 」を寝転がりながらでいいので、読んでおくことを強くお薦めします。

 

4.最後の手段:林屋礼二「 新民事訴訟法概要第2版

上記のあらゆる手段を使ったところで、どうやっても基本書の内容が頭に入らない、理解できない」というのはママ起こる事態です。試行錯誤した私も結局このタイプだと思います。

私が考える最終手段は、林屋礼二「新民事訴訟法概要第2版」を「とりあえずの」基本書にすることです。

 

最終改訂が2004年であり、現在は有斐閣オンデマンド(10,800円)またはアマゾン等の古本 でしか手に入らない本ですが、民事訴訟法の基礎概念の「基礎」を丁寧かつ簡潔に解説してあり、また、基本の理解に必要な範囲に絞った論点を判例を紹介しつつ解説してあり、極めてわかりやすい基本書です。私は同書以上にわかりやすい民訴法の基本書を知りません。

 

私は同書を何度も読むことはもちろん、引用されている判例はその頁の余白に要旨を書き、百選判例については関係があると思われる頁の余白に要旨を書き込みました。そしてその状態で余白を見ながら何度も通読することで、なんとか民訴法がわかるようになりました。

 

手に入れるのにお金がかかりますが、司法試験における民訴法の重要性と、民訴法で躓いていてしまっている現状を考えると、ケチるべきでない出費なのではと思います。

修習開始前の勉強メモ

司法修習に行く前の勉強について、修習生の立場から少し書いておきます。

なお、任官・任検志望の人など修習上位を目指す人は他のブログを参考にしてください。
また、私はまだ2回試験前ということにも留意してください。
 
まず、、合格後修習前は人生最後の長期休暇です。長期の海外旅行、語学研修など、就職後に出来ないことを最優先しましょう。実際、この時期に語学研修に海外に行った修習生はかなりいます。

 

民事事実認定

事実認定は民裁で直接問われ、民弁で前提とされる上、司法試験時代にはなじみがないので、苦労します。
 
司研民裁教官室「事例で考える民事事実認定」(白表紙)
通称「ジレカン」です。修習生活で何十回も読むことになる本です。
ぱっと見は薄くてわかりやすいのですが、民事事実認定はジレカンの理解が目標とも思える程に深い内容です。私は民事事実認定については「ジレカンを理解するために色々読む」というスタンスです。
ジレカンは修習前に5回くらいは読んでおくことを強くお勧めします。逆に言うと、修習前には民事系はこれだけでもいいかな、と思います。
薄いので5回読んでもそれほど時間はかかりません。
 
田中豊「事実認定の考え方と実務 」(民事法研究会)
どうしても、ジレカンの他にも読みたい人にはこちらをお勧めします。
ジレカンで引っかかりやすいところを、判例を紹介しながらわかりやすく解説されています。
 
ちなみに、修習中に読む事実認定本で人気があるのは、司研「民事訴訟における事実認定」、加藤新太郎ほか「民事事実認定と立証活動 第I巻 」「同 第II巻 」、奥田隆文・難波孝一編「民事事実認定重要判決50選等です。
 

要件事実

要件事実は民裁・民弁で、主張整理として事実認定の受け皿となるので、間違うと事実認定分を含めて大きな失点になるので、決して侮ってはいけません。
が、司法試験でかなり頑張った人は修習前には敢えてやる必要はないと思います。苦手だった人は、司法試験で使った要件事実の基本書を少し読み返しておきましょう。
ちなみに、修習では「読む」より演習の必要を感じる人が多く、村田渉ほか「要件事実論30講 第3版 」、岡口基一要件事実問題集 」、高須・大中・木納編「事案分析 要件事実 ―主張整理の基礎 」などが人気です。
 

公判前整理手続き

刑裁、検察、刑弁では、公判前整理手続きについて、「手続」だけでなく、「どのように主張と証拠が整理されるか?」の知識とイメージを持っておくことが必須です。司法試験ではなじみがないため、面食らう人が多いです(私もそうでした)。
 
司研刑裁教官室「プラクティス刑事裁判」(白表紙)
公判前整理手続きの実際、現在の実務の標準的運用が実際の記録に即して解説してあります。非常にわかりやすく、司法修習前に3度くらい読むことをお勧めします。必ず「記録編」を参照すること、条文も規則まで引くこと、に気をつけましょう。
 

刑事事実認定

刑事事実認定は刑裁、検察、刑弁で共通の必須スキルです。民事とはまたひと味ちがうので戸惑う人も多いです。
 
司研「刑事裁判修習読本」(白表紙)
修習中に10回以上読むことになる本です。「刑裁や事実認定について必要なことはだいたい書いてある」と評されていますが、逆に言うと実務修習を経て段々わかってくる感触がある本です。
修習前に読むと「よくわからない」という感想を持つと思いますが、「よくわからないけど、内容は何となく知っている」程度になっておくと修習中の勉強の指針になります。
修習開始前に、2,3度読んでおくことをお勧めします。実務修習中や実務修習終了後に読み返すと、また別の本を読んでいるような感じすらしますので、この段階で理解することに焦る必要はありません。
 
ちなみに、修習中(特に刑裁修習)には、小林充・植村立郎編「刑事事実認定重要判決50選〔第2版〕(上) 」「同 (下)を強烈に読みたくなる修習生が多く(私もです)、その後何回も読むことになります。
 

刑事系その他

検察については、
司研検察教官室「検察終局処分起案の考え方」(白表紙)
を何十回も読むことになります。
起案の形式だけでなく事実認定について多角的に考えることにも有益な本です。
しかし、まずは公判前整理手続と事実認定の基礎を学ぶことが先決なので、導入修習で検察講義を聞いてから読んだ方がいいかな?とも思います。
 
刑事弁護は、
司研刑弁護官室「刑事弁護講義ノート」(白表紙)
が基本テキストで、修習中に10回以上は読むことになります。「裁判所の事実認定手法を前提に、検察の立証構造を把握して、弾劾する」という基本についてわかりやすく書いてあります。
しかし、刑弁についても公判前整理手続と事実認定の基礎を学ぶのが先決なので、導入修習の刑弁講義を聞いてからでもいいかな?と思います。
 
 

論文が不合格だった人の勉強法

司法試験の発表がありました。不合格だった人はかなり精神的にキツいと思います。

しかし、来年の試験まで7ヶ月程度しかありません。来年の合格を確実にするには、すぐにでも対策を立てて勉強のエンジンをかける必要があります。
以下、順位等によるタイプ別の対策を書いておきます。
 
応急対策として、まず、択一が1800番以下の人は、「基本書の読み方−その2」と「短答の勉強の仕方の基本」 択一が不合格だった人の勉強で紹介した方法で択一過去問を徹底的にやりこみましょう。この過程で教科書を読み込むことになり、論文基礎力も固めることができるので、行政・会社・民訴・刑訴もやりましょう。
 
また、論文試験で途中答案があった人、時間不足で答案がボロボロ(特に答案後半)になった自覚がある人は、「筆力」を鍛える有用性と即効性に書いた方法で、早く書く練習をしましょう
 
そして問題の論文試験対策です。
 
第1に、順位の通知が来る前に、木山泰嗣「センスのよい法律文章の書き方 」を3回くらい通読しておきましょう。
「そこそこ知識があるのに論文の点が伸びない」人は、まさに「答案の書き方」に問題があるということです。本書で、法律文書の論理展開、理由付けの書き方などを確認しましょう。
 
第2に、いわゆる「法的三段論法」を意識して確認しましょう。
司法試験受験生がよく言う「答案は法的三段論法で書く」という言説はかなり一面的で額面通り受け取ってはいけないのですが、他方で法的三段論法を全く無視した答案はあり得ないことは事実です。そして、知識があって論文の点が伸びない人の中に、法的三段論法を再確認すべき人はかなり多いのも事実です。
法的三段論法については、色々本がありますが、手っ取り早くは、寺崎嘉洋「刑事訴訟法 第3版」p333〜(法的三段論法ってなによォ)を読むといいと思います。「事実と前提(要件)を行ったり来たりする」という、三段論法適用の実際がよくわかります。
 
また、同じことですが、民訴の教科書で直接事実と間接事実の意義を再確認しましょう。
全教科で、要件事実に直接該当する直接事実を摘示しているのか、間接事実を摘示して評価した上で、要件事実を推認しているのか、が不明確な答案は点が伸びません。
 
第3に、分野別の論文順位が3000番より下位の分野があった人は、その分野の基本書を1度通読しましょう。新しい本に取り組む時間は無いので、今まで読み込んできた基本書を読みましょう。
択一がそれなりに出来ているにもかかわらず、論文順位が3000番を下回るのは、科目の全体像がぼやけたイメージにしかなっていない可能性が高いので、基本書を通読することで、知識同士を有機的に関連付けて、科目の全体像を明確にイメージできるようにしましょう。
 
第4に、答案を時間を計って書き、その後「完全答案」に仕上げる作業をなるべくたくさんこなしましょう。これが最も大事です。
まず、当たり前ですが、司法試験に合格するためには、限定された時間内に問題文を分析し、答案を構成した上で、最後まで書き切ることが必要です。普段から、時間を計って答案を書くことを繰り返すことでしか、実践的な力は付きません。
 
また、完全答案に仕上げる作業をしない人がかなりいますが、それでは答案を書いた意味がほとんどありません。予備校が提供する参考答案や解説を読んで「勉強した」と言う人も多いのですが、同じく意味がありません。
自分が使っている基本書や判例集を使って、理論・論証・規範・事実評価の視点を答案に落とし込み、問題文の事実を拾った現実的な長さの答案を仕上げることでしか実力は付きません。予備校の資料で役に立つのは拾うべき事実の参考になる採点表くらいだと思います。
 
解く問題は、過去問が最優先です。過去問を全部解き終わっていない人は早急に取り組みましょう。1度解いた人も、過去問は2度、3度解いても新たな発見があります。
過去問以外だと、予備校の答練の問題のほか、下記の問題集を検討してみてください。
 

憲法

木村草太「憲法の急所―権利論を組み立てる 」 

 

行政法

大貫・土田「行政法 事案解析の作法 第2版

曽根・金子ほか「事例研究 行政法 第2版

 

民法

伊藤・山﨑「ケースブック要件事実・事実認定

 

会社法

伊藤・大杉ほか「事例で考える会社法

 

民事訴訟

藪口康夫「ロースクール演習 民事訴訟法

 

刑法

小林・島田「事例から刑法を考える 第3版

井田・田口・植村ほか「事例研究 刑事法Ⅰ 刑法 第2版

 

刑事訴訟法

井田・田口・植村ほか「事例研究 刑事法Ⅱ 刑事訴訟法 第2版

 

数をこなすことが極めて重要です。毎日、1日1問2時間で解いて、5〜6時間で完全答案を作成して、残りの1〜2時間で択一の勉強をする、というサイクルを来年の試験ギリギリまで繰り返すことを強くお勧めします。

 

ローの演習講義の受け方

ロー生にとって、授業には長期休暇中を除けば、予習を含めると自習より遥かに長い時間をかけることになります。また、単位の問題も軽視できません。


この点、「ローによる」「上位ロー以外に質を求めてはダメ」という人も多いです。しかし、私は上位ロー出身ではありませんが、ローの授業、特に演習は司法試験に役に立ったという感想です。
但し、ローの教員(私にとっては恩師)に叱られるかもしれませんが、司法試験受験勉強としての演習講義と割り切って考えていました。
 
以下に、ローによる差異があることを前提に最大公約数的で最小限の演習の受け方を書いておきます。
 
第1に、問題演習講義であれば、フルスケールの答案を書きましょう。どんな問題でも、法律の答案を書くというのは司法試験に向けたよい訓練です。事例問題であれば司法試験と同じ要領の練習になりますし、旧試験的な論点問題であっても、学説の共通部分、分岐点、判例が考慮している事項などをじっくり確認することは、他の論点の理解にもつながります。そして、これらを意識して学習するには答案を書くのが最適かつ効率的です。
 
第2に、判例演習であれば、当該判例の事案(判例集に載っている概要で良い)を前提に、「司法試験の答案的」な文章に書き換えることが極めて有益です。
判例の文章は考え抜かれた法律文書です。これを、全ての要件該当性を論じる、条文文言から説き起こした短い問題提起をする、一文を短くする等して司法試験的な答案にすることで法的思考力、文章力が付くと共に当該制度・論点・判旨が非常に深く理解できます。
この際には、木山泰嗣「センスのよい法律文章の書き方を参考にするとよいと思います。
 
第3に、文献調査の範囲の問題があります。調べようと思えば際限が無くなり、非効率な上、大量の情報に埋もれるばかりで理解が進まない危険があり、割り切って調査・読む対象を絞ることが必要です。他方で、何も調査しないと演習で得るものは少ないと思います。

そこで私は、下記のような割り切りをしていました。

なお、私は演習で読んだ下記のような参考文献は、基本的に演習終了後に再読はしませんでした。これも「司法試験受験勉強としての演習講義」に対する、私の割り切りの1つです。
 
まず、全科目に渡り岡口基一要件事実マニュアル<1>総論・民法1 」「同<2>民法2 」「同<3> 商事・保険・手形・執行・破産・知的財産 」「同<4>過払金・消費者保護・行政・労働 」「同<5>家事事件・人事訴訟・DV 」で該当論点を調べ、参考文献の最初に掲げられているものを読みます。岡口・マニュアルは参考文献の記載が豊富な上、重要度順に並んでおり、効率的な文献調査には極めて便利です(このことを知らないロー生が意外と多い)。
 
また、担当教員の著作(論文を含む)、担当教員の著作がない場合の担当教員の師匠の著作も極めて有益です。司法試験受験は出題者に研究者が多く含まれる以上、研究者の問題意識は軽視すべきではありません。そして、担当教員から直接学べる以上その教員の問題意識は質問するなど出来るため、非常に深く学べるので、極めて参考になるからです。
 
上記が無いまたは入手しにくい場合には、戦後の判例に大きな影響を与えた通説文献(いわゆる「基本文献」)を読むことが極めて有益です。判例の深い理解に資するからです。
科目別に書くと、
 
憲法なら、芦部説です。芦部説がどこまで判例に影響を与えたかは緒論あると思いますが、戦後憲法学を形成した通説だからです。具体的には、芦部信喜憲法学 1 憲法総論 」「憲法学 2 人権総論 」「憲法学 3 人権各論(1) 〈増補版〉 」、高見勝利「芦部憲法学を読む 統治機構論の該当箇所を拾い読みするといいと思います。
 
行政法なら田中説または塩野説です。田中説は戦後行政法学の出発点であり、それを継承するのが塩野説だからです。判例への影響も大きいです。具体的には、田中二郎行政法 (上巻) 」「行政法 (中巻) 」「行政法 (下巻) 」又は塩野宏行政法1 -- 行政法総論 」「行政法2 -- 行政救済法 」「行政法3 -- 行政組織法の該当箇所を拾い読みすると得るものは大きいでしょう。
 
民法なら、我妻説です。圧倒的通説であり、戦後の判例に激甚な影響を与えたと言われるからです。具体的には、我妻榮「新訂 民法総則 (民法講義 1) 」「新訂 物権法 (民法講義 2) 」「新訂 担保物権法 (民法講義 3) 」「新訂 債権総論 (民法講義IV) 」「債権各論上巻 (民法講義 5-1)債権各論 中巻一 (民法講義 5-2) 」「債権各論 中巻二 (民法講義 5-3) 」「債権各論 下巻一 (民法講義 5-4) 」「事務管理・不当利得・不法行為 」「親族法 (1961年) (法律学全集〈第23〉) 「」」の該当箇所を読むことを強く勧めます。論理性と妥当性のバランスがとれた記述や、実は何でも書いてあると言っていいほど豊富な問題点の指摘など、演習にも司法試験にもとても役に立ちます。
 
会社法は、根本的な改正がなされたため、立法を担当した法制審会社法部会長だった江頭憲治郎教授の著作を読んでいました。江頭憲治郎「株式会社法 第6版を基本書や参考書に使っていない人は、同書の該当箇所に目を通すだけでもいいと思います。
 
民事訴訟法は、兼子説です。戦後の判例に大きな影響を与えたからです。具体的には、兼子一「新修民事訴訟法体系の該当箇所を読むといいと思います。
 
刑法は団藤説です。戦後刑法の基礎を形成し、判例にも大きな影響を与えたからです。具体的には、団藤重光「刑法綱要総論 」「刑法綱要各論の該当箇所を読むといいと思います。
 
刑訴法は平野説です。戦後改正された刑訴法を当事者主義として構成し、戦後刑訴法学の出発点となっているからです。具体的には、平野龍一刑事訴訟法の基礎理論 (BUL双書) 」、同書に記載が無い部分の同「刑事訴訟法 法律学全集 (43)の該当箇所を読むといいと思います。
 
第4に、これが最も大事な点として、演習終了後に参加した同級生とお茶か食事をしながら、演習内容についてざっくばらんに話すことがあげられます。その際に、互いの答案を見せ合うなどするとより有益です。
自分だけで勉強していると思わぬ誤解をしていることもありますし、友人と話すことでより理解が進むことも多いからです。友人と議論できることはローに通う大きなアドバンテージです。

目次の重要性-条文を早く引く編

目的とする条文がどこにあるか?を素早く見つけるスキルは、時間との勝負である論文試験では非常に大事です。

また、そもそも条文の配列には当該法令の構造・体系が現れており、条文を早く見つけられる=条文構造が頭に入っている=当該科目の理解が容易になるといえます。
 
条文を早く見つけられるようになる、最も確実な方法は基本書や判例に出てくる条文(番号のみ含む)を、毎回、内容がわかっていると思っても、必ず六法で引くことです。ローで成績がいい人に、「六法の映像として覚えてしまい、新年度の六法を買ったら、載ってる場所が違って違和感ある」等と言う人がたまにいるのは、この点を徹底しているからです。
これをバカにしてやらない人は合格できません。
 
しかし、上記作業は極めて地道で、「結果として」条文を早く見つけられるようになる、条文構造が頭に入る、ということに過ぎません。条文を探すのに時間がかかること=条文構造がわかっていないことは、普段の勉強の阻害要因です。
従って、条文構造を早く頭に入れる、わからなくても手がかりを掴むことが重要になります。
 
そのためには、「条文目次」が極めて有益です。
条文を探す際に、まず条文目次を使っておおよその条数を把握してから、ページをめくると非常に素早く条文が見つかります。例えば、「代位弁済?」とかいう場合に、目次を見れば第3編・第1章(総則)・第5節(債権の消滅)・第1款(弁済)・第3目(弁済による代位)が499−504とわかります。
この際に頭の中に思い浮かべるべきは当該法令の体系、すなわち「基本書の目次」です。

目次の重要性−基本書編 - 司法修習生Higeb’s blogで書いた通り、基本書を目次を意識しながら読んでおくと、当該法令の「体系」が頭に入ります。体系が頭に入っていれば、上記の例だと、「弁済は債権の消滅関係だから、債権総則だけど、効力や連帯債務等の後、弁済の中では後の方」くらいの見当がつきます。その見当を基に目次を見て、具体的な条数を特定して、その条文をめくることになります。

この手法は、条文数の多い会社法や本番では条文題名がついておらず、準用も多い刑訴法では特に威力を発揮します。

 

この手法で条文を探しながら勉強していると、上記とは逆方向で基本書を読む際に体系を意識するようになり、制度や論点の位置づけ、問題になる具体例などが整理された形で頭に入るようになります。

条文を早く引けて、知識や論理が整理されて(=体系的に)頭に入っている人は、論文式試験では内容面でも時間的面でも非常に有利になります。

 

 

法人税法の学び方

租税法選択者で法人税法に苦手意識がある人は意外と多いです。また、司法試験でも難しめの問題が出題されるため選択科目といえど、ある程度勉強しておかなければなりません。

 
以下、法人税法の勉強の留意点等を書きます。
 
第1に、法人税法の勉強は所得税法の理解が大前提です。法人税法が苦手で無駄に勉強時間が長引いている人の多くが所得税法の理解が甘いままで法人税法の勉強をしているのが原因です。
特に、所得概念は所得税法の勉強でしっかり理解してから、法人税法に移るべきです。法人税法のわかりにくさ(例えば無償役務提供)の1番の原因は、「所得が発生しているか?」「そこに担税力はあるか?」の判断に慣れが必要なことにあります。
所得税法では比較的わかりやすい所得の発生を元に、所得分類や帰属年度を勉強します。この勉強を地道にすることで、所得概念の理解が深まります。法人税法には所得分類がないから」等の理由で所得税法の勉強が不十分なのに法人税法に進む人がいますが、大きな間違いです。(入門書に法人税法が含まれる場合に読むことは勿論問題ありません)
 
第2に、 基本書は比較的コンパクトなものを選び、読む回数を増やしましょう。
司法試験にはあまり細かい制度や条文は出題されません。基本的な制度・条文を所得概念等を使って事案を解決することが求められます。従って、あまり詳細な基本書は避けて、基本事項を条文・基礎概念と結びつけながら読む、ということを繰り返すことが有益です。
その視点からは下記の本をお薦めします。
 
「入門」と言うネーミングで、分量的に薄い上、軽いタッチの本ですが、説明は非常にわかりやすく、かつ、内容は司法試験に必要十分なレベルです。法人税法単体で見れば1番お薦めする本です。
ちなみに、三木義一「よくわかる税法入門 第9版 (有斐閣選書)との相性は当然抜群です。
 
谷口勢津男「税法基本講義 第4版
所得税法の項でもお薦めしましたが、租税法を要件事実的に記述してあります。租税法の問題は膨大な間接事実から、要件該当性を論ずるものが多く出題されるため、非常に司法試験向けと言えます。
内容も高度な割にわかりやすい記述です。
また、所得税法の解説も上記と同様である上、現状では国税通則法はこの本しか選択肢がないため、「租税法の一貫した勉強」ができる、という大きなメリットがあります。
ちなみに、私はこの本を使っていましたた。
欠点はやや高度なことです。
 
法人税法の勉強の留意点の第3は、上記の基本書に書いてある範囲では細かい制度も一応勉強しておくべきことです。
「租税法の問題は所得概念等の基礎概念からの説き起こしと、間接事実の評価・あてはめでなんとかなる」と言われることが多く、確かに間違いではありません。
しかし、その問われ方は結構マイナーな制度を出題して、それが実は基礎概念の問題だった、というパターンが多いです。その制度を全く知らないと、当日の緊張(しかも、全科目の最初 )も相まって、慌ててしまい、ボロボロになる可能性がかなりあります。
一応、知っていれば驚かなくてすむ上、問題となる基礎概念が最初から何となくわかり、高得点を狙えることにもなります。
 
第4は、留意点とは若干違いますが、簿記の基礎を知っておくと極めて有利だということです。
ある取引を、費用・収益・資産・負債・資本に分解して理解する、簿記=仕訳の考え方で、法人税法で、益金か損金か資本等取引か、を考えると非常に判断しやすくなります。
ちなみに、簿記は会社法でも役に立ちます。
 
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