司法修習生Higeb’s blog

68期司法修習生によるブログです。法律の勉強法・基本書・参考書などの司法試験ネタや勉強ネタを中心に書いていきます。

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刑訴法を「要件事実思考」で考えるー演習の第1歩

刑訴法の演習は過去問から始めるべきです。時期もなるべく早く、ロー2年の夏休みくらいから始めるべきです。

 
刑訴法の司法試験問題は、とにかく事実が膨大です。そして、任意捜査の規範(必要性・緊急性を考慮した相当性)を考えるとわかるように、要件に直接あてはまる主要事実はほとんど無く、間接事実からの推認が中心です。したがって、事実の整理と評価が非常に重要になります。
 
但し、事実を整理するためには、条文の要件と論点から導出される規範が明確になっていることか必要不可欠です。
受け皿となる、要件・規範が曖昧だったり、趣旨の理解が甘いと、事実を落としたり、本来適用すべきでない条文を適用したりして大きな失点となりやすいです。
 
更に、間接事実を適切に評価して、主要事実を推認するには、当該要件・規範の趣旨や目的の深い理解が必要不可欠です。答案で必要な事実の評価とは、事実と当該要件・規範はどのような関係にあるか?ということであり、それは結局、趣旨や目的に沿う事実かどうか?という判断だからです。
 
上記は特別なことではなく、刑訴法も要件→効果思考で、法文やその趣旨(解釈)から要件事実を導出して、要件該当性を1つ1つ判断し、効果が発生するかを判断するというに尽きます。
つまり、刑訴法を要件事実思考で考えるということになります。
 
以下、順を追って説明します。
 
第1に、問題となる条文(要件)、(判例からの)規範を出題趣旨・採点実感から特定します。当然のことのようですが、ここを疎かにして、刑訴法の答案がメチャクチャになっている人がかなりいます。
 
また、条文や判例の規範にはすべてに事実をあてはめることに注意すべきです。論点のある要件のみに気をとられる人がいますが、すべての要件該当性が肯定されてはじめて、効果が発生するという、要件→効果思考を意識しましょう。
 
また、このとき、ごく簡略に、条文・基礎概念からの説き起こしをすることが大事です。例えば、任意捜査の限界を論ずる前提として、強制処分法定主義→強制処分を定義→事案が任意捜査の問題であること、を書く(いきなり、「任意捜査の限界は必要性〜」と書かない)、ということです。出題趣旨・採点実感を基に、酒巻匡「基礎講座・刑事手続法を学ぶ」(いわゆる酒巻・新連載)(法学教室連載/355号~394号)や佐々木・猪俣「捜査法演習 理論と実務の架橋のための15講 」、廣瀬健二編「刑事公判法演習: 理論と実務の架橋のための15講 」を参照して簡潔かつ必要十分な記述をしましょう。
簡潔な記述まで落とし込む程度の理解がないと、刑訴法が不得意になってしまうので、軽視せず、しっかりとチェックしましょう。
 
 
第2に、事実をあてはめる前に、酒巻・新連載・「捜査法演習 」・「刑事公判法演習 」の該当箇所を読み、趣旨→規範を確認します。上述のように事実を評価するための指針を得るためです。
 
基本書等では、判例と異なる規範を立てる、又は、判例の規範を詳細化してあることが多いので、それも併せてしっかりとチェックします。例えば、任意捜査の「必要性」基準について、嫌疑の高さ・犯罪の重大性・密行性等を挙げてあることが多いと思います。
 
また、各規範・考慮要素の背後にある人権保護vs真相解明を軸とする価値の対立・バランスを「具体的に」把握しましょう。捜査の必要だけで納得せず、証拠隠滅の危険・被害拡大の防止・他の捜査手段の乏しさ、ということまで掘り下げて各規範・考慮要素を理解する、ということです。
こうすることで、事案の通常性と特殊性が把握できるようになり、刑訴法の理解が深まると共に、膨大な事実の適切な整理・評価ができるようになります。
司法試験受験生用語でいう「下位規範」を、深く理解するということです。
 
第3に、事実の評価は、条文や判例の規範を「規範的要件(事実)」と捉えて、第2でチェックした基準(下位規範)ごとに、評価根拠事実(主要事実の推認にプラスの事実)と評価障害事実(マイナスの事実)に分けて整理します。この点は重要なので以下に分説します。
 
まず、事実をバラバラに評価することは、司法試験受験生は避けた方が無難です。いわゆる「総合考慮」を受験生がやると、事実から結論に飛躍しているだけのことを「総合考慮」と称しているに過ぎなくなることが多いからです。
 
また、事実を評価するとは、当該事実が刑訴法の基本的な制度趣旨や価値判断にとってどのような意味か?を考えることです。事実と刑訴法の制度趣旨・価値判断とを「行ったり来たり」しながら、事案や基本書を読み解くことが大事です。
 
受験生が地道に思考して、手堅く評価するには、第2でチェックした、判例を詳細化した考慮要素や、判例と異なる規範を、判例の規範へのあてはめのための「整理」の基準として使う=下位規範として使うことが大切です。基本書の考慮要素・規範は、当該条文・制度の趣旨から導出されています。判例を詳細化した考慮要素はもちろん、判例と異なる規範であっても、司法試験での学説の学び方 - 司法修習生Higeb’s blogで述べた通り、論理や思考、価値判断の大半は共有されています。したがって、条文や判例の規範に事実を当てはめるにあたっての重要な基準になります。
 
また、要件・規範の判断は、様々な間接事実から推認されますが、該当性にプラスの事実とマイナスの事実を考慮する思考は、民事要件事実の規範的要件の判断と似ています。したがって、各要件・規範ごとに評価根拠事実と評価障害事実を考えると、非常にわかりやすくなります。
 
事案を下位規範に沿って、評価根拠事実と評価障害事実に整理することは、他にも大きな効用があります。
 
まず、事実を落とさなくなります。「事実は自己の結論と反対の事実も落とさない」と、よく言われます。しかし、漫然と問題を読んで、規範定立→あてはめをして、というだけでは、中々難しいことです(そもそも結論が自分の思い込みに過ぎないことも多い)。
評価根拠事実と評価障害事実を意識すれば、受け皿があるので、事実を確実に拾えます。
 

次に、常識外れな結論になることが少なくなります。刑訴法は価値判断が前面に出るような誤解をしがちな科目です。私の周りにも「学説は捜査の必要性という実務の思考に反する」等と実務を知らないにもかかわらず、一面的な価値判断をしてしまう人がいましたが、刑訴法の基礎的理解も知識もないことを自慢しているようなものです。

前述の通り、刑訴法は、人権保障と真実解明という理念の対立とバランスが肝の科目です。

価値判断を前面に出した、思い込みの結論は法律を学び、司法試験受験生として「常識外れ」なことが多くなります。「結論に至る論理が大事であって、結論はどうでもいい」と言う人がいます。それはそれで正しいのですが、法律を学ぶ者の常識の枠内での結論である必要があるのも事実です。言い換えると、常識外れな結論は事実を落としていたり、整理・評価が間違っている、又は制度趣旨を誤解している可能性が極めて高いと思います。そうであれば点が非常に悪いことになります。

要件事実思考では、各要件の趣旨や目的を考えます。その上で、評価根拠事実と評価障害事実に整理すると、どちらがより強いかが視覚的にもわかりやすく、評価を誤りにくく、結論が常識の枠内となります。

 

第4に、効果論をしっかり考えましょう。この後にどんな手続きがあり、そこでどんなことが審理・判断されるか(これがぱっと頭に浮かばない人は、三井・酒巻編「入門刑事手続法 第6版を何度も読みましょう。)、そこでは結論がどうなるか?ということを意識すべきです。例えば、捜査が違法ならば、後続の勾留請求はどうなるか?証拠は公判で証拠能力が認められるが?、訴因の範囲外の事実があるなら、審理するためにはどうすればよいか?そのまま手続きが進めば、判決はどうなるか?等を、直接問われているときはもちろん、直接問われていなくても、頭の中で少し考えて、目の前の問題を解くことが重要です。

刑事訴訟手続きは、刑罰権の実現のための一連の手続きなので、最終的な結論まで一応考えてから判断しないと、考慮すべき事項を落としたり、重み付けを誤ったりする可能性が高くなります。

また、結論を想定せずに各要件・規範を趣旨から理解することは不可能です。この点は、基本書を読むだけでは感覚が掴みにくいので、演習でしっかり意識して学びましょう

この作業を面倒くさがらずに続けると、刑訴法の点数がかなり上がります。

 


 

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