司法修習生Higeb’s blog

68期司法修習生によるブログです。法律の勉強法・基本書・参考書などの司法試験ネタや勉強ネタを中心に書いていきます。

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会社法の演習-過去問で「慣れる」

会社法は条文把握が大変で、また、会社再編等、苦手になりがちな分野が多い科目です。更に、論点が比較的多く問われる科目でもあります。そのため、「演習」というより、「論点潰し」ばかりをする人が多いと思います。

確かに、1度は論点潰しをすることも有用です。
 
しかし、会社法は論点以前の条文の要件、特に訴訟類型を選択し→当事者適格・期間制限等の訴訟要件該当性を書いて→実体要件を検討し→効果を書く、という基本を押さえていない人が多い科目です。代表訴訟で原告適格を書かない、株式発行から6ヵ月以上経っているのに無効の訴えを検討する、等する人がかなりいるということです。
これを「うっかり」「不注意」で済ます人がいます。しかし、このようなことをしてしまうのは、前述の会社法の思考様式がわかっていないか、少なくとも「慣れていない」ことが原因であることが多いと思います。上記思考様式を一つ一つ踏んで、答案を書けば、間違えるはずは無いからです。
 
この会社法の(会社法に限らないのですが)基本的な思考様式を身に付けるには、演習の第1歩を過去問から始めることが非常に有益だと思います。司法試験受験生にとって、最も慣れるべき対象は司法試験の本試験問題たからです。また、本試験問題のような長文で資料も多い問題に取り組むことで、会社法紛争がどのような場面として現れるかがわかるので、後に論点潰しをする際に紛争を想定できるようになるという副次的効果も大きいです。
 
やり方にはいくつかの留意点があります。
 
第1に、出題趣旨と採点実感を読み解くことで、当該問題で何をどう書くべきかを学ぶべきであることは、他科目と同じです。その際に、参照すべきは江頭憲治郎「株式会社法 第5版 」と岡口基一要件事実マニュアル 第3巻(第4版) 商事・保険・手形・執行・破産・知的財産 」です。
基本書としては、何回も読んで会社法の全体像を掴む重要性から、伊藤・大杉ほか「会社法 第2版 (LEGAL QUEST)を進めました。しかし、本試験問題等、答案を書くことで会社法の思考様式を身に付けると共に論点の深い理解や相互関係を学ぶには、江頭・株式会社法 を参照すべきです。通読する訳ではないので、それほどの量でなく時間もさほどかかりません。非常に端的で、かつ、深い理由付けが記述されていることは、もちろんですが、非常にあてはめがしやすい説明がなされている点も見逃せません。
 
また、判例勉強の際は、判例を直接扱っていることが多いので、大江忠「要件事実会社法<1>) 」「同〈2〉 」「同(3)を薦めました。が、過去問に取り組む際は、コンパクトにまとまっていて、かつ、説明が簡明でチェックしやすい、岡口・要件事実マニュアル<3> の方が使いやすいと思います。なお、岡口・マニュアル<3> の会社訴訟分野は170頁とコンパクトな中に、要件事実だけでなく、会社訴訟全体の説明がなされているので、1度通読するとかなり会社法の「使い方」がわかります。
 
第2に、問題文を読む際は「数字」に多大な注意を払いましょう。発行済み株式数、出席株主の株式数、資本金等の金額、紛争により流出した金額、年月日等です。数字に全て赤丸を付けてもいいくらいです。
そして、それらを規制する条文(総会決議要件、配当可能利益等)をしっかりとチェックします。ここで間違うということは、訴訟類型、訴訟要件、訴訟物等全ての間違いに繋がります
 
第3に、訴訟類型を選択して、訴訟物と効果を考えましょう。当該紛争をどういう請求でどのような効果をもたらし、それによってどのような解決を図るか?という紛争解決のスタートとゴールがわからずに問題を解こうとすると、かなり的外れな答案を書く危険性が高くなります。
また、あわせて江頭・株式会社法 で、請求の効果を後始末を含めてチェックしましょう。新株発行無効訴訟が認められた場合に、当該株式はどうなるか?株主のとるべき措置は?等を確認するということです。
 
第4に、その上で攻撃防御と要件事実を考えます。民法と異なり、要件事実そのものが直接問われることはありません。しかし、会社法は問題文の事実がそもそも多い上に、実体的に不当な面と手続きが履践されていない面が同時に問題になることも多く、答案が混乱しがちです。各要件事実を念頭に、事実を主要事実、間接事実、否認(事実)に分類することで、事実をスッキリと分類できます。そうすると論ずべきことも明確になります。未整理の答案では、要件に事実をあてはめていない、論点がずれている等の理由から、「書いているのに点が悪い」ということがよく起こります。
 
会社法の要件事実を条文から抽出するのは、この段階ではまだ難しいので、岡口・マニュアル<3> を先にチェックし、その上で条文と対照すると効率的です。この際に、論点がどの要件事実についてのものかも確認します。岡口・マニュアル<3> はこの点の確認が非常にやりやすい点で、司法試験受験生向けに非常に有益です。
 
その後に、江頭・株式会社法 で当該論点についての記述を、当該項目丸ごと読みましょう。あくまでも、制度・条文を適用する上での論点なので、孤立的に勉強しても意味がないどころか有害です。特に会社法は、制度全体を俯瞰した視点を持てないと、極めて苦手な科目になってしまうので、注意が必要です。
 
第5に、他科目と同じですが、上記検討で抽出した要件事実(論点についての規範を含む)に具体的事実をあてはめます。この際に、請求原因事実・抗弁事実・否認事実に分類し、その中で、実体と手続きを分けて書きましょう。整然と整理すると論旨が明快になりますし、思考そのものもクリアになります。また、とかく混乱しがちな会社法の答案が、とても読みやすく=試験委員に受けやすくなります。


 

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