行政判例の学び方-個別法の解釈手法を身に付ける
まず、行政法判例に取り組む際には、百選の使用はお薦めしません。事案の概要や個別法の引用が短く、判例学習を司法試験答案・演習への第1歩と考えると、やや使いにくく、また、解説が高度すぎて読みこなすのが大変だからです。
判旨の引用が長く、解説で事案や個別法を詳しく解説してあり、櫻井・橋本「行政法 第4版 」(以下、「サクハシ」)と著者が同じで相性がいい、橋本博之「行政判例ノート 第3版 」を薦めます。
行訴法の判例は、直接には、個別法の解釈とあてはめがなされたものです。行政法総論の理論や知識を「使って」個別法を解釈するイメージです。個別法と離れた判旨も、個別法を前提としない行政法総論の理論・知識もありません。
例えば、行政裁量の問題で、判断過程統制審査をするとしても、そもそも裁量があるのか?あるとしてどのような裁量か?考慮してよい要素は何か?等は全て個別法の解釈です。条文文言、趣旨目的規定の文言、行政法総論の理論・知識を使って、解釈した結果が判旨であり、判例です(中野ほか「判例とその読み方 」参照)。
つまり、行政法総論の判例学習の目的は、行政法総論の理論・知識を使って、個別法を解釈し、事実をあてはめる過程を学ぶことです。司法試験との関係では、基本的な答案の流れを学ぶこと、と言ってもいいと思います。
まず、行政法総論の判例は、先に事案の概要と判旨を一読してから、サクハシの当該判例掲載項目を丸ごと読みましょう。サクハシの記述で、当該判例の位置付け・意味付けを読んで、学習の「アタリ」をつけるためです。ここで、理解を深める訳ではありません。
次に、法令データ提供システム|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブを使う等して、判例の事案で問題になっている根拠法令をチェックします。この際、判旨に出てくる条文だけでなく、必ず1条の趣旨目的規定を読みましょう。
根拠条文を特定したら、更に判旨や解説、サクハシを頼りに要件事実を抽出します。判旨から要件事実自体はわかることが多いので、それほど苦労はしないと思います。この際、岡口基一「要件事実マニュアル 第4巻(第4版) 過払金・消費者保護・行政・労働 」を参考にするのも非常に有益です。
続いて各要件事実に該当する具体的事実=主要事実を、判旨・解説・サクハシから読み解きます。すなわち、あてはめをチェックします。
ここまでを一気にやりましょう。基本的には「考える」という作業ではなく、「読み解く」という作業ですので、それほど時間はかからないはずです(時間がかかる人はもっとサクハシ・解説・岡口マニュアルを頼りましょう)。
その後、改めて判旨を確認し、サクハシを読んで、当該判例がどのような理論をどのような位置付けで判示したかを学びます。上述の作業で個別法の解釈をしてから、これをやると、判旨もサクハシも冒頭でのチェックのときと全く違う捉え方を自分がしていてびっくりすることがあると思います。
行政救済法の判例学習も、総論のそれと基本的には変わりません。特に気を付けることのみ書きます。
行政救済法では、処分性や原告適格等、行訴法の解釈が問題になり、受験生はそちらに目が行きがちで、基本書も処分性等の判断定式のみを読む人が多いです。
しかし、処分性判断の基礎である当該行為がどのような効果を持つか?原告適格判断の基礎である、根拠法令は原告の利益を保護しているか?等は全て個別法の解釈です。
また、要件事実の抽出にあたっては訴訟要件と本案勝訴要件をきちんと分けて検討しましょう。具体的には、訴えが却下か否か?の判断と、認容か棄却かの判断をきちんと分けて理解すべきです。ここが出来ていないと、「行政訴訟による紛争解決」という、救済法の基本的視点が欠落するからです。この点のチェックには、岡口「要件事実マニュアル 第4巻(第4版) 過払金・消費者保護・行政・労働 」が非常に便利です。
また、手続き問題や判決効については、民訴法の理解が前提になります。面倒でも、民訴法の基本書でその都度チェックしましょう。