司法修習生Higeb’s blog

68期司法修習生によるブログです。法律の勉強法・基本書・参考書などの司法試験ネタや勉強ネタを中心に書いていきます。

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暗記の優先順位

内田貴教授が民法I 第4版: 総則・物権総論で指摘する通り、暗記と理解は車の両輪です。理解無き暗記は困難である上に意味が無く、暗記無き理解も、困難である上にそもそも「理解したことを忘れた」のであれば、答案は書けず、それ以上の理解も不可能です。

暗記は理解を助け、理解すると暗記しやすくなるというのが実態ではないかと思います。

とすると、問題は暗記をする優先順位ということになります。ロースクールが2,3年、司法試験が5年(5回)という有限な時間の中での勉強時間にはそもそも限りがあり、その内暗記に費やすことの出来る時間は更に限られるからです。

なお、「基本書や判例を読んでいるうちに自然と覚える・覚えるべき」ものは今回は除外します。よく出る条文文言や条数、各制度・条文の趣旨などです。逆に言えば、暗記のための勉強を別途すべきであるものを今回は書きます。

第1に、択一過去問については最優先で暗記すべきです。択一合格に必須ということもありますが、択一に出題されている知識は、答案を書く前提となるものが多いためです。
何度か書いている通り、基本書を読み込むツールとして解いて暗記し、6割程度出来るようになるまでは他の勉強に手を出すべきではありません。もちろん、最終的には過去問は全問暗記すべきです。
なお、今年から行政法、商法、民訴法、刑訴法が択一科目から外れましたが、それらの教科も過去問はしっかり解いて、暗記すべきです。論文試験に知識が必要な点は、憲・民・刑と変わらないからです。
択一をパスしないと論文が採点されず、択一科目でなくとも基礎知識なしで答案は書けないことから、択一過去問(事項)は、最優先で暗記すべきです。

第2に、条文に手がかりがない定義も早い段階で暗記すべきです。民訴法の「自白」、刑法の「不法領得の意思」等、結構多いです。
答案を書く上では、手がかりがない以上、暗記するしかありません。また、基本書や判例を読む際に定義がぱっと言えないと、理解できない、又は、読むのに非常に時間がかかり非効率です。

条文に手がかりがある定義(刑訴法の伝聞証拠の意義など)は、条文を引きながら基本書・判例に取り組む中で身につくことが多いのですが、手がかりのないものは中々身につきません。本試験では六法しか参照できず、条文に手がかりがない定義は覚えていないと、全く答案が書けないので、暗記の優先順位はかなり高いと思います。

第3に、判例要旨は百選判例については必要というのが私の考えです。
判例学習は再三書いている通り、要件事実的に行うことで、論点が絡む事案の処理方法を学ぶものです。その意味で「判例は事案ごと勉強すべきで、要旨では足りない」というのに賛成です。
しかし、それは代表的な判例の結論と要旨を知っていることが前提だと思います。基本書を読む際、他の判例を読む際に百選判例程度は結論と規範、簡単な理由付けくらいは頭に入っていないと、理解が進まないか、非常に非効率かのどちらかになる可能性が高いと思います。
「代表的な判例」の意味が問題ですが、百選判例と考えておけばいいのではないでしょうか?また、択一で問われる可能性が高く、択一対策にもなります。

本試験で答案を書く上で、判例要旨を覚えていると、判例の規範はもちろん、理由付けの言い回し、特徴的な事実の対比など、色々と便利に使えます。非常に応用力が広いので、判例要旨の暗記はとてもお薦めします。

なお、私は、民法については、百選判例では全然足りないと感じたので、重判掲載の判例も要旨を暗記しましたが、優先順位は下がりますし、特にお薦めまではしません。

第4に、論証パターンが問題となります。論証パターンの有用性には色々と意見があり、私も少なくとも長い論証パターンには、かなり懐疑的です。
旧試験のように長々と「論証」する必要がある問題が新試験では出題されたことがなく、また、規範は最終的には膨大な事実をどう整理するか?という視点から立てねばならず、「パターン」として暗記しても使えないこと、が主な理由です。また、予備校(本)が作っている論証パターンの中に、論証になっていない、論理的でなく、最低限の理由付けもない、にもかかわらず長いものが散見されることにも注意すべきです。

また、判例の規範や理由付け自体は判例要旨を暗記すれば済み、その方が応用力が広いと思います。
つまり、論証パターンの暗記の優先順位は低いと思います。

しかし、それでも「判例の規範の大枠」を現場で悩まずに書けるようにするために、論証パターンを覚えたい人もいると思います。私も、行政法原告適格や刑訴法の伝聞証拠法則の根拠→意義等は用意していました。

この場合、判例要旨は覚えている(はず)なので、論証パターンとして作成し、暗記するのは、極めて簡略(基本的にワンフレーズ・一行)かつポイントを絞った記述にすることが極めて重要です。例えば、行政法原告適格の意義を「原告適格は、法律上保護される利益をもつ者に認められ、それは①利益の存否→②その利益は根拠法令で形式的に保護されているか→③その利益は個別的利益か、に従い判断される」とするなどです。

そもそも考える時間を短縮するための論証パターンを使う場面は、書く時間も絶望的に無いはずなので、ワンフレーズにする必要があります。
他方で、その後に事実をあてはめなければならない以上、ポイントを外す訳にはいきません。

なお、ポイントを外さないワンフレーズの論証は、判例要旨の暗記と併せると、非常に応用力が広く有益です。判例の規範等に事実をあてはめる際に、ワンフレーズ論証を念頭に置くと、事実を整理しやすくなるからです。

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