暗記の優先順位
内田貴教授が「民法I 第4版: 総則・物権総論
」で指摘する通り、暗記と理解は車の両輪です。理解無き暗記は困難である上に意味が無く、暗記無き理解も、困難である上にそもそも「理解したことを忘れた」のであれば、答案は書けず、それ以上の理解も不可能です。
暗記は理解を助け、理解すると暗記しやすくなるというのが実態ではないかと思います。
とすると、問題は暗記をする優先順位ということになります。ロースクールが2,3年、司法試験が5年(5回)という有限な時間の中での勉強時間にはそもそも限りがあり、その内暗記に費やすことの出来る時間は更に限られるからです。
なお、「基本書や判例を読んでいるうちに自然と覚える・覚えるべき」ものは今回は除外します。よく出る条文文言や条数、各制度・条文の趣旨などです。逆に言えば、暗記のための勉強を別途すべきであるものを今回は書きます。
第1に、択一過去問については最優先で暗記すべきです。択一合格に必須ということもありますが、択一に出題されている知識は、答案を書く前提となるものが多いためです。
何度か書いている通り、基本書を読み込むツールとして解いて暗記し、6割程度出来るようになるまでは他の勉強に手を出すべきではありません。もちろん、最終的には過去問は全問暗記すべきです。
なお、今年から行政法、商法、民訴法、刑訴法が択一科目から外れましたが、それらの教科も過去問はしっかり解いて、暗記すべきです。論文試験に知識が必要な点は、憲・民・刑と変わらないからです。
択一をパスしないと論文が採点されず、択一科目でなくとも基礎知識なしで答案は書けないことから、択一過去問(事項)は、最優先で暗記すべきです。
第2に、条文に手がかりがない定義も早い段階で暗記すべきです。民訴法の「自白」、刑法の「不法領得の意思」等、結構多いです。
答案を書く上では、手がかりがない以上、暗記するしかありません。また、基本書や判例を読む際に定義がぱっと言えないと、理解できない、又は、読むのに非常に時間がかかり非効率です。
条文に手がかりがある定義(刑訴法の伝聞証拠の意義など)は、条文を引きながら基本書・判例に取り組む中で身につくことが多いのですが、手がかりのないものは中々身につきません。本試験では六法しか参照できず、条文に手がかりがない定義は覚えていないと、全く答案が書けないので、暗記の優先順位はかなり高いと思います。
しかし、それは代表的な判例の結論と要旨を知っていることが前提だと思います。基本書を読む際、他の判例を読む際に百選判例程度は結論と規範、簡単な理由付けくらいは頭に入っていないと、理解が進まないか、非常に非効率かのどちらかになる可能性が高いと思います。
第4に、論証パターンが問題となります。論証パターンの有用性には色々と意見があり、私も少なくとも長い論証パターンには、かなり懐疑的です。
旧試験のように長々と「論証」する必要がある問題が新試験では出題されたことがなく、また、規範は最終的には膨大な事実をどう整理するか?という視点から立てねばならず、「パターン」として暗記しても使えないこと、が主な理由です。また、予備校(本)が作っている論証パターンの中に、論証になっていない、論理的でなく、最低限の理由付けもない、にもかかわらず長いものが散見されることにも注意すべきです。
つまり、論証パターンの暗記の優先順位は低いと思います。
この場合、判例要旨は覚えている(はず)なので、論証パターンとして作成し、暗記するのは、極めて簡略(基本的にワンフレーズ・一行)かつポイントを絞った記述にすることが極めて重要です。例えば、行政法の原告適格の意義を「原告適格は、法律上保護される利益をもつ者に認められ、それは①利益の存否→②その利益は根拠法令で形式的に保護されているか→③その利益は個別的利益か、に従い判断される」とするなどです。
そもそも考える時間を短縮するための論証パターンを使う場面は、書く時間も絶望的に無いはずなので、ワンフレーズにする必要があります。
他方で、その後に事実をあてはめなければならない以上、ポイントを外す訳にはいきません。
なお、ポイントを外さないワンフレーズの論証は、判例要旨の暗記と併せると、非常に応用力が広く有益です。判例の規範等に事実をあてはめる際に、ワンフレーズ論証を念頭に置くと、事実を整理しやすくなるからです。