司法修習生Higeb’s blog

68期司法修習生によるブログです。法律の勉強法・基本書・参考書などの司法試験ネタや勉強ネタを中心に書いていきます。

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憲法を深める-いきなり過去問(参考書)

判例を一通り勉強したら、早速演習に取り組み力を付けましょう。基本書を極めてから、判例をしっかり理解してから演習に取り組もう等とは決して考えてはいけないと思います。そんなことを言っていたら永遠に演習はできない可能性が高いです。また、演習に取り組むことで、基本書や判例の理解が進みます。ある程度で割りきって、ロー2年の夏休みくらいから演習に取り組むべきです。

 
しかし、何を解くか?が問題だと思います。
 
私は、最初から過去問に取り組むことを薦めます。司法試験の科目で演習書と本試験問題の乖離が最も大きいのが憲法だと思います。特に非常に多くの事実と個別法が付される点は、市販の演習書や予備校の問題では質・量共にもの足りません。また、早い段階で本試験問題に取り組む効用は過去問勉強の仕方の基本 - 司法修習生Higeb’s blogで書いた通り大きいです。
 
過去問に取り組む際の必須の参考資料は、出題趣旨と採点実感です。この二つで求められている判例理解、判断の大枠、認定・評価すべき事実や個別法をきちんと答案に盛り込むことが必要であり、目標です。後で紹介する資料は、あくまでも出題趣旨と採点実感を読むための補助資料です。
 
過去問を解く留意点は、第1に、個別法の可視化です。行政法ほど複雑なものは出題されませんが、個別法の趣旨を問題文の政府利益や個別法の1条から明確にし、各趣旨の発現規定を特定した上で、その細目を定める政省令や担保規定(刑事制裁など)を樹系図にして可視化します。この作業をすることで、当該事案で国民の権利・利益が、どのように、どの範囲で制限されているかを把握できます。
憲法は人権が制約されているか?されているとして正当化できるか?が問われるので、制約の仕組みがわからないと何を書いていいかわかりません。そして、制約の仕組みとは、個別法の内容理解なので、この作業が必須です。
 
その後は、出題趣旨と採点実感と基本書である、駒村圭吾憲法訴訟の現代的転回: 憲法的論証を求めて (法セミLAW CLASS シリーズ)又は小山剛「「憲法上の権利」の作法 新版を見ながら、答案を書いていきます。ちなみに、この段階で何も見ずに書くのはほぼ不可能で、また、無益です。個別法の可視化が終わったら上記を見ながら答案構成をし、答案を起案しましょう。
パソコン作成でもいいので、必ず司法試験での枚数以内でのフルスケール答案を書きましょう。答案構成やメモだけでは、「どう書くか?」の訓練にはなりません。また、規定の枚数以内で書くことが求められる以上、枚数制限は守らないと、これまた訓練にはなりません。ちなみに、私がPCで起案するときは、27字×23行で7枚以内としていました。
 
しかし、この段階では司法試験問題そのものの解説がないと答案を書くのは厳しいと思います。
参考にすべきは、大島義則「憲法ガールだろうと思います。評価が高い本です。私も非常に有益な本だと思います。が、注意すべきことが非常に多い本であることを強調しておきます。安易に使うと憲法を理解ではなく誤解します。また、素晴らしい点と注意点が裏腹なことが悩ましさを増幅します。有益な点は他のブログ等で絶賛されているので、割愛し、注意点のみを書きますが、同書が過去問検討に極めて有益であることは記しておきます。
 
まず、同書はあくまで出題趣旨と採点実感を読むための補助資料であることは、いくら強調しても強調しすぎることはありません。言い換えると同書の解説を絶対視したり鵜呑みにしてはいけないということです。わかりやすく、説得的であることから、同書を参考に出題趣旨・採点実感を読んで、問題を考える(考え直す)ことをしない、いわば思考停止になっている人が結構いました。「検討」後の答案が同書の参考答案そのままという人は要注意です。過去問はそれを題材に思考を深めることが主眼なので思考停止になるなら、取り組まない方がいいと思います。同じ問題は2度と出ないので、参考答案を丸覚えしても何ら合格に結びつきません。問題文に対し試験委員がどのように答えて欲しいかを理解することが大事であって、それは出題趣旨と採点実感に集約されています。憲法ガールを使って、それらを読み取るということです。
 
また、芦部信喜憲法 第五版 」へのアクセスがわかりにくいのも注意点です。小山・作法等を読んだことにより、芦部・憲法を軽視・批判する人がかなりいます。しかし、それは危険な発想です。判例・学説により様々な批判があり、芦部説を乗り越える見解が有力になっても、芦部説が現在の憲法解釈の基礎を形成している点に変わりはありません。そして、芦部・憲法に示唆される問題意識が司法試験問題で問われています。過去問を検討するにあたっても、少なくとも答案を仕上げた後で芦部・憲法の記述を確認しましょう。憲法ガールではその手がかりがほとんどなく特に意識しておく必要があるので、答案作成後の芦部・憲法チェックをルーティーンとしておきましょう。
 
憲法ガール最大の利点と言われる「事実の重視」という点も注意が必要です。事実の重要性に異論があるわけではありません。「事実の重視」を「違憲審査基準は不要」「論点不要」と読み替える人が多いことが問題だと思います。憲法といえど、要件→事実思考により事案は処理されます。したがって、条文から要件を導出し(この過程で論点からの規範定立が必要になる)、事実を認定・評価してあてはめることが答案の基本です。その過程で違憲審査基準を定立する必要があります。個別法の解釈から制限利益・人権を特定し、その趣旨や重大性、制限態様から違憲審査基準を定立することは必須の思考です。その過程で当然論点が問題になります。事実の重視を、論点・規範・違憲審査基準の軽視に結びつけることは決してしてはなりません。
 
憲法ガール最大の特色である、(著者の性癖・女性観・恋愛観を強く伺わせる)ラノベ風の記述にも要注意です。会話の流れでわかったような気になってしまい、それ以上考えないということがあるからです。過去問に取り組むことで「思考する」という姿勢を忘れないようにしましょう。
 
 






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