要件事実「論」を学ぶ(基本書・参考書・演習書)
要件事実の勉強は、①要件事実「論」を学ぶ場面と、②要件事実を「チェックする」場面に分かれます。
同書を少なくとも3回は読んで、実体法の解釈については必ず民法の基本書に立ち返って確認しましょう。この過程が、要件事実の学習の全ての基礎となります。
この大島・民事裁判実務〈上〉 と民法の基本書を行ったり来たりする過程をどれだけバカにせずやるかで、要件事実を得意にするか不得意にするか、ひいては全ての科目で要件事実思考ができるか否かが決まります。
なお、同書のadvanceは初学者は読まない方がいいと思います。初学者には難しすぎるからです。ある程度、勉強してから読みましょう。
第2段階の演習については、そもそも演習の必要性に疑問を持つ人もいると思います。しかし、問題を読んで要件事実を整理する練習をすると、その過程で要件事実論の知識や理解が非常に深まるので是非、取り組むべきです。
使う本は、村田渉・ほか「要件事実論30講 第3版 」をお薦めします。基本的に研修所見解にしたがっており(貸借型理論を除く)、かつ、解説が詳細で学習には適しているからです。
同書は、1部は要件事実の総論、2部は言い分方式による問題と解説、3部は解答例のみが付いた問題、という構成です。大島・民事裁判実務〈上〉を読んだ前提であれば、1部は読まなくていいと思います。また、3部は解説がないため、初学者には不適当です。したがって、2部のみを問題集として使えばいいと思います。
やり方は、まずは何も見ずに問題を読み、請求の趣旨を書き、訴訟物を特定して、請求原因を書きます。請求の趣旨を書かない人が結構いますが、権利実現過程たる裁判の目標を考えないと、実体法・訴訟法の理解が進みません。必ず書きましょう。
次に、請求原因に対する認否を書きます。何が争点かを特定する作業です。
そして、抗弁を書きます。そして、それに対する認否を…と続きます。
書き終わったら、解説を読みながら自分の解答のおかしいところを直していきます。この際、必ず自分がなぜ間違ったかも特定しましょう。同時履行の抗弁権の存在効果を忘れていた、付款の証明責任の所在を勘違いしていた等です。30講 の解説だけではわかりにくい場合には、大島・民事裁判実務〈上〉 立ち戻って確認するのを厭うべきではありません
解く→間違う→解説・基本書で原因を特定する、の繰り返しで要件事実の力は飛躍的に付きます。
ここまでを、2年生の夏休み前までに終わることが理想ですが、遅くとも夏休み中には終わりましょう
第3段階の要件事実論を深める勉強は、3年生になる前の春休みくらい、ローの総合的・仕上げ的な演習講義が始まる前にやるといいと思います。要件事実論を深めることで、演習講義の学習をも深まるからです。
要件事実論を深めるのに最適な本は、岡口基一「要件事実入門 」です。同書はかなり高度な議論を非常にわかりやすく書いてあるので、司法試験受験生が要件事実論を深めるのには唯一無二と言ってもいいと思います。
(私に語る資格はありませんが)要件事実論は良くも悪くも、「司法研修所見解」を中心に議論が展開しています。そのため、司法試験受験生はまず司研見解を理解することが大事だと思います。大島・民事裁判実務〈上〉 の本文や30講の解説(貸借型理論を除く)も司研見解の立場で書かれています。
しかし、要件事実論が実体法と訴訟法の交錯領域であり、あくまで法解釈である以上、異なる見解はあって当然です。この意味では、判例と異なる学説を学ぶのと同様に、どこまでが同じ論理で、分岐の理由はどこか?を考えることで、応用力、言い換えると本試験の現場で条文や契約条項から要件事実を組み立てる力が付きます。試験は一発勝負なので知らないから書けないでは済みません。
また、多様な要件事実論の論理を知ることで、要件事実を「使って」実体法・手続法を理解する手掛かり、ツールが増えることも重要です。
岡口・入門 は、要件事実の基礎的事項を根本から解説し、実体法理論(判例の規範)の根本的機能と趣旨を踏まえた要件事実が説明されており、今まで学んだ司研見解からの発展的思考と、逆に司研見解の整理されたクリアな理解が得られ、極めて有益です。
非常にわかりやすく、簡明な記述であり、全体のボリュームもコンパクトであることも特筆すべきです。従来は、要件事実を深く学ぶ=要件事実オタクになる≒合格が遠のく、という図式を主張する合格者が結構いましたが、岡口・入門 を使う限りはその心配はないと思います。
留意点は、この本を読んでわかった気になってはいけないということです。とてもわかりやすく、発展的な思考を学んだため、要件事実を極めた的な気持ちになりがちです。しかし、この後に問題を解く、判例を読む、基本書を読む際に、要件事実を考え、「チェック」し(別に書きます)、要件事実を「使って」各科目を理解することが、そもそもの目的であることを忘れないようにしましょう。