刑法過去問に取り組む
刑法を深める-第1段階の演習(参考書・演習書) - 司法修習生Higeb’s blogで、書いた通り、刑法は過去問に取り組む前に、島田・小林「事例から刑法を考える 第3版 」を一通り解いておくことをお薦めします。
第2に、規範と事実の認定・整理・評価は明確に区別しましょう。刑訴法を「要件事実思考」で考えるー演習の第1歩 - 司法修習生Higeb’s blogで書いた要件事実的思考を刑法でもとるということです。
条文の要件や判例の規範(不法領得の意思とは〜など)が(規範的)要件事実であり、規範に適合的な視点・基準から、事実を評価根拠事実と評価障害事実に分けて、判断する、と言うプロセスになります。規範は要件と同等ですから、全ての該当性を論じますが、基準はあくまで事実の整理の指標なので、適宜使い分けることになります。
要件事実「論」を学ぶ(基本書・参考書・演習書)
要件事実の勉強は、①要件事実「論」を学ぶ場面と、②要件事実を「チェックする」場面に分かれます。
同書を少なくとも3回は読んで、実体法の解釈については必ず民法の基本書に立ち返って確認しましょう。この過程が、要件事実の学習の全ての基礎となります。
この大島・民事裁判実務〈上〉 と民法の基本書を行ったり来たりする過程をどれだけバカにせずやるかで、要件事実を得意にするか不得意にするか、ひいては全ての科目で要件事実思考ができるか否かが決まります。
なお、同書のadvanceは初学者は読まない方がいいと思います。初学者には難しすぎるからです。ある程度、勉強してから読みましょう。
第2段階の演習については、そもそも演習の必要性に疑問を持つ人もいると思います。しかし、問題を読んで要件事実を整理する練習をすると、その過程で要件事実論の知識や理解が非常に深まるので是非、取り組むべきです。
使う本は、村田渉・ほか「要件事実論30講 第3版 」をお薦めします。基本的に研修所見解にしたがっており(貸借型理論を除く)、かつ、解説が詳細で学習には適しているからです。
同書は、1部は要件事実の総論、2部は言い分方式による問題と解説、3部は解答例のみが付いた問題、という構成です。大島・民事裁判実務〈上〉を読んだ前提であれば、1部は読まなくていいと思います。また、3部は解説がないため、初学者には不適当です。したがって、2部のみを問題集として使えばいいと思います。
やり方は、まずは何も見ずに問題を読み、請求の趣旨を書き、訴訟物を特定して、請求原因を書きます。請求の趣旨を書かない人が結構いますが、権利実現過程たる裁判の目標を考えないと、実体法・訴訟法の理解が進みません。必ず書きましょう。
次に、請求原因に対する認否を書きます。何が争点かを特定する作業です。
そして、抗弁を書きます。そして、それに対する認否を…と続きます。
書き終わったら、解説を読みながら自分の解答のおかしいところを直していきます。この際、必ず自分がなぜ間違ったかも特定しましょう。同時履行の抗弁権の存在効果を忘れていた、付款の証明責任の所在を勘違いしていた等です。30講 の解説だけではわかりにくい場合には、大島・民事裁判実務〈上〉 立ち戻って確認するのを厭うべきではありません
解く→間違う→解説・基本書で原因を特定する、の繰り返しで要件事実の力は飛躍的に付きます。
ここまでを、2年生の夏休み前までに終わることが理想ですが、遅くとも夏休み中には終わりましょう
第3段階の要件事実論を深める勉強は、3年生になる前の春休みくらい、ローの総合的・仕上げ的な演習講義が始まる前にやるといいと思います。要件事実論を深めることで、演習講義の学習をも深まるからです。
要件事実論を深めるのに最適な本は、岡口基一「要件事実入門 」です。同書はかなり高度な議論を非常にわかりやすく書いてあるので、司法試験受験生が要件事実論を深めるのには唯一無二と言ってもいいと思います。
(私に語る資格はありませんが)要件事実論は良くも悪くも、「司法研修所見解」を中心に議論が展開しています。そのため、司法試験受験生はまず司研見解を理解することが大事だと思います。大島・民事裁判実務〈上〉 の本文や30講の解説(貸借型理論を除く)も司研見解の立場で書かれています。
しかし、要件事実論が実体法と訴訟法の交錯領域であり、あくまで法解釈である以上、異なる見解はあって当然です。この意味では、判例と異なる学説を学ぶのと同様に、どこまでが同じ論理で、分岐の理由はどこか?を考えることで、応用力、言い換えると本試験の現場で条文や契約条項から要件事実を組み立てる力が付きます。試験は一発勝負なので知らないから書けないでは済みません。
また、多様な要件事実論の論理を知ることで、要件事実を「使って」実体法・手続法を理解する手掛かり、ツールが増えることも重要です。
岡口・入門 は、要件事実の基礎的事項を根本から解説し、実体法理論(判例の規範)の根本的機能と趣旨を踏まえた要件事実が説明されており、今まで学んだ司研見解からの発展的思考と、逆に司研見解の整理されたクリアな理解が得られ、極めて有益です。
非常にわかりやすく、簡明な記述であり、全体のボリュームもコンパクトであることも特筆すべきです。従来は、要件事実を深く学ぶ=要件事実オタクになる≒合格が遠のく、という図式を主張する合格者が結構いましたが、岡口・入門 を使う限りはその心配はないと思います。
留意点は、この本を読んでわかった気になってはいけないということです。とてもわかりやすく、発展的な思考を学んだため、要件事実を極めた的な気持ちになりがちです。しかし、この後に問題を解く、判例を読む、基本書を読む際に、要件事実を考え、「チェック」し(別に書きます)、要件事実を「使って」各科目を理解することが、そもそもの目的であることを忘れないようにしましょう。
暗記の優先順位
刑訴法を「要件事実思考」で考えるー演習の第1歩
刑訴法の演習は過去問から始めるべきです。時期もなるべく早く、ロー2年の夏休みくらいから始めるべきです。
次に、常識外れな結論になることが少なくなります。刑訴法は価値判断が前面に出るような誤解をしがちな科目です。私の周りにも「学説は捜査の必要性という実務の思考に反する」等と実務を知らないにもかかわらず、一面的な価値判断をしてしまう人がいましたが、刑訴法の基礎的理解も知識もないことを自慢しているようなものです。
前述の通り、刑訴法は、人権保障と真実解明という理念の対立とバランスが肝の科目です。
価値判断を前面に出した、思い込みの結論は法律を学び、司法試験受験生として「常識外れ」なことが多くなります。「結論に至る論理が大事であって、結論はどうでもいい」と言う人がいます。それはそれで正しいのですが、法律を学ぶ者の常識の枠内での結論である必要があるのも事実です。言い換えると、常識外れな結論は事実を落としていたり、整理・評価が間違っている、又は制度趣旨を誤解している可能性が極めて高いと思います。そうであれば点が非常に悪いことになります。
要件事実思考では、各要件の趣旨や目的を考えます。その上で、評価根拠事実と評価障害事実に整理すると、どちらがより強いかが視覚的にもわかりやすく、評価を誤りにくく、結論が常識の枠内となります。
第4に、効果論をしっかり考えましょう。この後にどんな手続きがあり、そこでどんなことが審理・判断されるか(これがぱっと頭に浮かばない人は、三井・酒巻編「入門刑事手続法 第6版 」を何度も読みましょう。)、そこでは結論がどうなるか?ということを意識すべきです。例えば、捜査が違法ならば、後続の勾留請求はどうなるか?証拠は公判で証拠能力が認められるが?、訴因の範囲外の事実があるなら、審理するためにはどうすればよいか?そのまま手続きが進めば、判決はどうなるか?等を、直接問われているときはもちろん、直接問われていなくても、頭の中で少し考えて、目の前の問題を解くことが重要です。
刑事訴訟手続きは、刑罰権の実現のための一連の手続きなので、最終的な結論まで一応考えてから判断しないと、考慮すべき事項を落としたり、重み付けを誤ったりする可能性が高くなります。
また、結論を想定せずに各要件・規範を趣旨から理解することは不可能です。この点は、基本書を読むだけでは感覚が掴みにくいので、演習でしっかり意識して学びましょう。
この作業を面倒くさがらずに続けると、刑訴法の点数がかなり上がります。
「要件事実重視」-優秀でない人の戦略
会社法の演習-過去問で「慣れる」
会社法は条文把握が大変で、また、会社再編等、苦手になりがちな分野が多い科目です。更に、論点が比較的多く問われる科目でもあります。そのため、「演習」というより、「論点潰し」ばかりをする人が多いと思います。
行政判例の学び方-個別法の解釈手法を身に付ける
まず、行政法判例に取り組む際には、百選の使用はお薦めしません。事案の概要や個別法の引用が短く、判例学習を司法試験答案・演習への第1歩と考えると、やや使いにくく、また、解説が高度すぎて読みこなすのが大変だからです。