刑法総論の学び方(基本書・副読本・参考書)
以上を前提に自分の経験を書くと、私は西田典之「刑法総論 第2版(法律学講座双書) 」を使っていました。同書の長所は、①刑事における要件事実を意識してあり、判断枠組み・各考慮要素が明確で理解しやすく、答案への応用がしやすいこと、②非常に穏当で手堅い(≒難解な理論をあまり用いない)解釈論であり、文章的にも練られており、非常にわかりやすいこと、③①②の帰結ともいえますが、刑事裁判官の共著ででも基本書に薦めた、小林・植村「刑事事実認定重要判決50選〔第2版〕(上) 」でかなり言及・意識されており、相性がよいので刑法答案で多くの人が苦労する間接事実の認定・評価能力の習得にも有益であること、④判例の引用が長く、西田説からの判例の深い考察がなされていること、⑤別途紹介予定の刑法の勉強を深めるための本との相性がよいこと、などです。
以前も書いた通り、著者急逝のため改訂が望めないこと、罪数論が薄いことなど、欠点(小林・島田ほか「刑法総論 第2版 (LEGAL QUEST) 」で補う)もありますが、司法試験の刑法の勉強には非常に向いていると思います。
基本書を読む際の留意点の第1は、「犯罪とは、構成要件に該当し、違法で、有責な行為ある」という最も基本的な定式を常に強く明確に意識すること(構成要件は実行行為・結果・因果関係に分ける)です。例えば、共犯は全体理解も個々の論点も難しいですが、苦手な人は因果関係の問題なのか故意の問題なのかを意識していないため、思考が孤立的になり理解できない場合が多いと思います。中止犯や正当防衛など各説で体系的位置づけが異なるのに、並列的に考えてしまい、答案が矛盾してしまう人もかなり多いと思います。
留意点の第2は、すくなくとも本文で引用されている判例は百選等で事案の概要を確認することです。刑法の判例はいわゆる「判例理論」と呼ばれる一般論を示すことがとても少ないです。あくまで、事案に沿って妥当な判断を示していることがほとんどです。したがって、判例の結論だけ覚えても択一はともかく論文式試験には全く役に立ちません(判例との差が問題なっているのに形式的にあてはめてとんでもない結論になったりする)。事案を含めて判例を読み、併せて一連の判例を基本書がどう位置づけているかを理解することで答案の力が付きます。