司法修習生Higeb’s blog

68期司法修習生によるブログです。法律の勉強法・基本書・参考書などの司法試験ネタや勉強ネタを中心に書いていきます。

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目次の重要性−基本書編

「基本書の読み方がわからない」というのは未修1年生だけでなく、学力が伸び悩んでいる人がよく口にする悩みです。

 
基本的には、
①3回位通読して、「何がどこに書いてあるか」をわかるようにする(ここで高望みしない)
②択一過去問を解いて、該当箇所を読んで理解する(過去問を何度も繰り返すので、基本書も結果的には何度も読み込む)
判例を読んで、該当箇所を読む
ことが最も効率的です。
 
しかし、「通読」「択一・判例の該当箇所読み」の仕方が次に問題になります。
この点の極めて有力なツールが基本書の「目次」です。
 
目次とは当該科目の著者が考える体系そのものであり、基本書の内容全てが凝縮されています。
制度の要点、制度間の関係、論点の位置づけ、判例のスタンス等、目次には司法試験に必須の知識や何より「論理」が端的に示されています。
以下、目次を使った基本書の読み方の要点を書きます。
 
第1に、目次は階層構造=論理構造になっていることを理解しましょう
例えば、刑法の、構成要件論における、実行行為性の、不作為犯論の、作為義務論の、義務発生事由、ということを、目次では、第1編 構成要件・第2章 実行行為・第3節 不作為犯・第2款 作為義務・第2 作為義務発生の根拠、等と表現されているということです。
これを理解しておくということは、当該制度や当該論点がそもそも何の問題で、事案において何をどう処理するために論じられているかを明確に意識するということです。答案だろうと択一だろうと司法試験で問われているのは、結局、事案をどう論理的理由付けで処理するかである以上、上記を意識して基本書を読むことは、ほぼ必須の勉強です。
そのためのツールとしては目次が最適です。
 
第2に、目次を論理構造と視覚的に理解できるよう、加工することが非常に有益です。
パソコンで目次を階層毎にインデントをずらして書き写すということです。上記の例で言えば、第1編 構成要件の次の行に第2章 実行行為を半字下げして書き、また改行して、半字下げして第3 不作為犯…と書いていくのです。
巻頭の「目次」にはある程度より下の階層は書いてないこともあるので、この際にページをペラペラめくって、1番下の階層までを書いた「完全目次」を完成させましょう
 
この作業だけでも当該基本書の体系を意識することができます。そして、基本書を読む際に、完全目次を傍らに置いて、自分が読んでいる箇所を完全目次の最上位から階層を追って確認し、「今、自分が何について読んでいるのか?」を基本書の体系に位置づけながら読むと、その法分野の体系が非常にわかりやすくなり、結果として当該制度や論点の理解が容易になります。
 
第3に、私は択一や論文問題の復習時に「基本書の最下層目次丸ごと」読むことを薦めていますが、この際も当該最下層目次を完全目次で最上位から階層を下ってチェックしてから読みましょう。具体的問題を解くことによる意識に体系的位置づけが付加されると、記憶に残りやすく、理解も深まります。

択一が不合格だった人の勉強

択一試験が不合格だった人は緊急の対応が必要です。

択一試験に合格できないと言うことは、基本的知識や基本的制度の最低限の理解が出来ていないことを意味するからです。
 
そのため、答案の練習以前に「基本書をしっかり読む」というところから、やり直す必要があります。
 
また、憲・民・刑がそのレベルであれば、他教科も同様の可能性が高く同じように緊急対応すべきです。司法試験の択一過去問では、答案を書く前提知識が問われています。択一試験が無くなった科目についても、択一過去問は全問検討し、理解・暗記すべきです。
 
まず、改めて基本書を通読すべきです。しかも、発展的な本を使っていた人は、基本事項を説明してある本に変更すべきです。知識や理解を基本事項に集中させるためです。
 
その後に、択一過去問を解いていくことになります。この際は、答えがわかったか否かにかかわらず、全問条文をチェックし、基本書の該当箇所を読みましょう。教科書は該当記述だけでなく、少なくとも最下層目次分は丸ごと読みましょう。ローで2〜3年学んで択一に不合格になるということは、「わかったつもり」でわかっていない知識がかなりあると考えられるからです。
 
なお、択一を解いて「正解した」とは理由付け、条文、判例すべてが頭に入っており、理解できている状態を指します。「答えは分かった」「はっきりではないが、覚えていたことから答えがわかった」「暗記していたからわかった」は不正解と同義です。択一で問われている知識はそれくらい基礎的で重要だということを認識しましょう。
 
以上のことを論文試験の発表日である日まで繰り返しましょう。その間は論文の勉強・発展的な本を読むなどほかの勉強は一切せず、上記の地道な勉強(作業といってもいい)に集中しましょう。
 
なお、上記は択一に合格しても順位が3000番を超える人にも基本的にはあてはまります。
 
以下、科目ごとの留意点を書きます。
 

憲法

 
憲法は、芦部信喜憲法 第六版をしっかり通読しましょう。
択一で点を取れないということは、芦部・憲法を理解する以前に書いてある知識を表面的にも読めていない可能性があります。もちろん、小山・作法駒村・憲法訴訟 等を読むレベルにも無いと思います。
 
芦部・憲法を2,3度通読した上で、択一過去問を解いては芦部・憲法の該当箇所を最下層目次単位で読む、ということを繰り返しましょう。
また、条文を毎回引くのはもちろん、声に出して読むなど、条文に意識が向くよう工夫しましょう。
 

民法

 
民法は、山本・総則同・契約中田・債総潮見・プラクティス 等、詳細・発展的な本を使っている人は、それを一旦封印しましょう。択一に不合格の状態・レベルでそれらを読んでも理解は出来ないばかりか、基本的事項への意識が疎かになる等、弊害が大きいからです。
その視点から改めてお薦めの基本書を挙げると、
佐久間毅「民法の基礎 (1) 総則 第3版(但し、やや高度)
佐久間毅「民法の基礎〈2〉物権(但し、やや高度)
松井宏興「債権総論 (民法講義)
です。
 
民法1度は通読し直しましょう。択一が出来ないと言うことは、知識量が足りない上、理解がバラバラである可能性があるので、体系を再度頭に入れるためです。
その際に条文を毎回引くことは極めて重要です。この作業をバカにすると択一の合格は不可能です。
 
その後は択一の問題を解いては、条文・教科書最下層目次をチェックすることを繰り返します。
また、全問について、岡口基一要件事実マニュアル 第1巻(第4版)総論・民法1 」「要件事実マニュアル 第2巻(第4版)民法2攻撃防御丸ごとチェックします。岡口マニュアルのチェックは当該条文の要件を意識的にしっかりチェックすることが主目的です。解釈も要件事実もあてはめもとにかく条文が出発点ということを再認識しましょう。
 

刑法

刑法も基本書の通読は必須です。択一に不合格になるということは、刑法の基本理念や体系の理解・暗記が甘い可能性が高いからです。

しかし、西田典之刑法総論 第2版( 」「刑法各論 第6版 」、山口厚刑法総論 第2版 」「刑法各論 第2版 」、高橋則夫「刑法総論 」「刑法各論 」、井田良「講義刑法学・総論等を使っている人で択一刑法の科目別順位が3000番より下の人は、一度コンパクトな本をしっかり読み込んで頭の中に刑法の構造を叩き込むことを薦めます。この視点からは、

山口厚刑法 第3版

井田良「入門刑法学・総論 」「入門刑法学・各論

のどちらかを使うといいと思います。

上記を3回位通読した後に、本来の基本書を3回位通読しましょう。

 

その上で択一過去問を解いては、条文をチェックし、基本書の該当最下層目次を丸ごと読む、ということを何度も繰り返しましょう。

 

行政法

行政法は、他の基本書を使っている人も、櫻井・橋本「行政法 第4版を通読しましょう。行政法の全体像を把握するためです。

 

教科書に出てくる条文は、個別法であってもちゃんとチェックし、どの要件が問題となっているかを確認しましょう。

 

行訴法、行手法については、声に出して読むなどの工夫をして要件を頭に叩き込みましょう。

 

 その後は択一過去問を解いては、条文と該当のサクハシ最下層目次を丸ごと読む、ことを繰り返しましょう。

 

会社法

会社法基本的な条文の理解が最優先です。膨大な条文があるため、どの条文もちゃんと理解できてない、ということが多いからです。

そこで敢えて、岡口基一要件事実マニュアル 第3巻(第4版) 商事・保険・手形・執行・破産・知的財産 」の会社訴訟部分の通読を先行させることをお薦めします。訴訟類型から訴訟要件、実体要件の要件事実を確認することで、会社法の重要条文を読み込むことができるからです。

 

その後、伊藤・大杉ほか「会社法 第3版 (LEGAL QUEST)を通読して会社法の全体像を頭に入れます。この際も条文はしつこいくらいに六法を引きましょう。通読は2,3回繰り返すべきです。 

その後、択一過去問を解いては、条文をチェックし、リークエの該当最下層目次を丸ごと読む、ということを何度も繰り返しましょう。特に、会社法は条文を探すことが論文でも大事なので、条文チェックはしつこいくらいやりましょう。

 

刑訴法

刑訴法の基本書を、上口裕「刑事訴訟法安冨潔「刑事訴訟法講義 第3版などの比較的詳細な基本書を使っている人は、1度三井・酒巻「入門刑事手続法 第6版に戻りましょう。刑訴法は枝葉末節にとらわれて全体像の把握ができないままに論文の勉強に突入してしまっている人が多いからです。
 
同書を2,3度読んでから改めて自分が使用している基本書を2度くらい通読しましょう。
なお、基本書に悩みがある人には、酒巻匡「基本講座・刑事手続法を学ぶ(1)〜(26・完)」(いわゆる酒巻・新連載)(法学教室連載/355号〜394号)をお薦めします。
 
その上で、択一過去問を解いては、条文をチェックし、基本書の該当最下層目次を丸ごと読む、ということを何度も繰り返しましょう。特に、刑訴法は条文題名が無く、本番で条文探しに時間をとられることがあるので、条文のチェックはしつこいくらいしましょう。 

 

 
 
 

司法試験後発表までの勉強

司法試験を受験された皆さん、お疲れさまでした。
 

司法試験後、発表まで約3ヶ月半という長い時間があります。

合格に自信がある人は海外旅行にでも行けばよいですし、不合格を確信している人は今まで通りの勉強を続けるべきです。
 
問題は、「合格してると思うけど、自信が無い」という人です。私もそうでした。
このタイプの人の選択肢の1つとして、「司法試験にも役立つし、司法修習にも役立つ」勉強をすることが考えられます。
私はまだ、司法修習の途中であり、2回試験を受けていませんが、現時点で上記に当てはまる勉強を以下に書いておきます。
 
なお、修習との関係では、民法と刑事系が優先です。
 

民法

岡口基一要件事実マニュアル 第1巻( 」「要件事実マニュアル 第2巻 」の通読

 
「最近の司法修習は、事実認定重視で要件事実軽視」との言説がありますが、実感としては正しくありません。
事実認定の前提として主張整理をせねばならず、そのためには要件事実をがっちりやる必要があるからです。起案でもしっかり問われています。
 
岡口・マニュアルを引きながら勉強した受験生は多いと思いますが、この機会に通読を強くお薦めします。
読み進めながら解釈論でわからないことがあれば、基本書をチェックしましょう。また、当該要件事実がなぜkgなのかEなのかについての記述も読み落とさないよう気をつけ、場合によっては大島眞一「完全講義 民事裁判実務の基礎〈上巻〉に戻るようにしましょう。
 
 
村田渉ほか「要件事実論30講 第3版
 
要件事実をもう少し学びたい人は、30講の第2部を「演習書」として使って勉強することをお薦めします。
岡口・マニュアルを「読んだだけ」では、要件事実を主張整理に使えるようになっていない場合が多いからです。
司法試験の勉強としては、ややオーバースペックかもしれませんが、要件事実が得意にしておくと民法・民訴法・会社法の点が確実に上がりますので、取り組む価値は大きいと思います。
 
ちなみに、修習生になると要件事実・主張整理については、岡口基一要件事実問題集高須・木納・大中ほか「事案分析 要件事実 ―主張整理の基礎に泣きながら取り組むことになります。
 
 
 
要件事実より解釈に重点を置きたい人は、岡口・マニュアルの次は、内田・判例集を読むことをお薦めします。
「合格してると思うけど」という人は、基本書はかなり読み込んでいると思うので、ある程度の数の判例を読むことで解釈論を確認することが有益です。
司法試験の民法のレベルは、百選だけでは全く足りないですし、判例をたくさん読むことで応用力がつきます。
修習でも幅広い判例を理解していることは、当然のこととして要求されます。
内田・判例集はこのような目的に最適の質と量を備えています。取り組むに当たっては、条文だけは必ず六法で確認しましょう。
不安なところは、基本書に帰ることも大事です。
 
 

刑事系

 
司法試験の刑法・刑事訴訟法は長文の問題から間接事実をたくさん拾い、評価してあてはめることが要求されます。
したがって、事実認定の勉強は点に直結します。司法修習でも事実認定はメインの勉強の1つです。
50選は、刑法・刑訴法の解釈論と事実認定を結びつけて理解でき、しかも事実認定の基本的な考慮事項を基礎から説明してあり、司法試験にも司法修習にも非常に有益な本です。
供述の信用性など一部司法試験からはやや外れるものもありますが、さほどの量はないので、負担にはならないと思うので、是非上下巻通読をお薦めします。
 
 
 
刑事訴訟法については、司法試験で使っている人も多い実例・刑訴をお薦めします。
論点についての深い考察はもちろん、手続きの実務が解説されており、司法試験にも司法修習にもとても役に立ちます。
この時期ならば、今まで手薄だった公判前整理手続き等に重点を置いたり、証拠法なら証拠調べの具体的手続きに着目したりするとよいと思います。
 
なお、Ⅰ(捜査法)の代わりに、増補 令状基本問題〈上〉 」「増補 令状基本問題〈下〉を読むのも選択肢の1つです。やや古い本ですが、捜査法については基本文献です。修習にも役立つことはもちろん、司法試験に出題される論点についての深い実務的な考察がなされています。
但し、かなり難しい内容と感じる人もいると思います。
(ちなみに最近増刷されたので、入手については出版社に直接尋ねた方がいいと思います。)
 
 

執行・保全

藤田広美「民事執行・保全
または
 
 
修習では執行・保全法を扱います。弁護修習で起案する人も多いです。そもそも、紛争の最終的解決を担う法曹の修習なので、執行・保全法は必須な上に2回試験にも出題されます。
司法試験との関係では、

司法試験で執行・保全法を学ぶ意味(基本書・参考書) - 司法修習生Higeb’s blog

で書いた通り、民訴法や担保物権法の深い理解につながるので、学ぶ価値が大いにあります。
 
藤田・民訴を基本書にしていた人やコンパクトな本を読みたい人は藤田先生、書式を含む実務のある程度詳しい情報も学びたい人は平野先生を選ぶと良いと思います。
 

選択科目の代表的な書籍

修習(特に弁護修習)でも司法試験の選択科目は自分が特に詳しい分野なので、民事・刑事問わず主体的に関わることが可能です。
司法試験では、コンパクトな本で勉強した人が多いと思うので、この期間に重厚な本を読むことは有益です。司法試験にも役立つことはもちろんです。
 
具体的には、
租税法だと、金子宏「租税法<第20版>
倒産法では、伊藤眞「破産法・民事再生法 第3版または藤原総一郎ほか「倒産法全書(上)〔第2版〕 」「倒産法全書(下)〔第2版〕
などが有力な候補です。
 

その他の司法試験科目の代表的な書籍

司法試験科目は実務でも重要な法律分野なので、この機会に実務で参照される代表的基本書を読むことはとても有益です。
司法試験に役立つことはもちろんです。
 
会社法なら、江頭憲治郎「株式会社法 第6版
等です。
 
 
 
 

家族法をどのくらい勉強するか(基本書・副読本・参考書)

新司法試験では、家族法を無視することができません。
択一に数問出るので、出来ないとそれなりの失点になります。
また、論文式試験でも何度か正面から問われたことがあり、もちろん、きちんと書けなければなりません。

一方で、問われる内容が基本的な事項が多く、それほど時間をかけるのも得策ではないあたりが、悩ましいところです。

家族法の勉強で注意すべき第1は、家族法はとても技術的な分野であることを認識すべきということです。
身分関係という合理では中々解決しない事柄を扱うので、どうしても、イデオロギー的な面に気が向いてしまい、それぞれの基本書(特に、二宮・家族法 )をボロクソに貶したりしがちです。
イデオロギーに対する賛否を横に置けず、制度や判例の理解の現実性・妥当性がわからない人は、自分が現実の具体的な紛争の適正な処理に携わる「法律実務家」を目指していることを再度確認すべきです。

その意味で、お勧めする勉強法・基本書は以下の通りです。

まず、司法試験受験生に最も評価されているのが、半田吉信ほか「ハイブリッド民法〈5〉家族法です。
学部とローの架け橋を目指しているだけあって、分かりやすさとそれなりのレベルを両立しています。かなり、取っつきやすいので、家族法を勉強したことがない人にもお勧めです。
ただ、かなり細かい知識が詰め込まれているので、全体を把握するにはそれなりに時間がかかります。
司法試験の家族法の出題が、基本的・根本的な問題であることを考えると、負担が大きいとも言えます。

基本的・根本的な問題を、全体的に把握するには、二宮周平家族法 が最適です。イデオロギーについて、ネガティブな反応をする人が多いのですが(私もかなり批判的です)、制度理解や判例の深い理解・考慮事項の検討など、非常によくまとまっています。改訂がそれなりの頻度で行われることも魅力です。

家族法の知識や理解を定着させるには、旧試験を含む択一問題に取り組むことが最適・至上です。
基本書を参照しながら、択一に取り組めば、論文で問われても全く問題なく解くことができます。

家族法はほぼ無視する、という選択肢を否定はしません。
ただ、合否は1点差で決まる、という私の考えからは、基本書を読んで、択一過去問を解いて覚えておくことは、とても大事だと思います。


行政法過去問に取り組む-演習の第1歩

行政法の演習で身に付けるべきは、①個別法を読み解き、②原告の希望を実現できる訴訟類型を選択し、③個別法の解釈を行訴法の解釈に反映させて訴訟要件を判断し、④実体問題を個別法に従い判断することで、⑤②以降の全過程で事実の認定・整理・評価が問題になります。

このすべてを早期に身に付けるとともに、その後の勉強の土台とするには、演習は過去問から始めることをお勧めします。質量共に本試験問題に匹敵する市販の問題集が残念ながら無いからです。

取り組み方ですが、兎にも角にも限られた時間内に個別法の解釈が出来るようになることが必達の目標です。
そのための手法が「可視化」であり、「樹形図」の作成です。

まず、問題文を事案・設問共に読みましょう。
その上で、末尾に付されている個別法を読んで樹形図を作っていきます。

まず、第1条所定の趣旨目的を細分化して、項目化します。個別法の各条文を趣旨目的の具現化として整理するためです。

次に、規制要件規定を特定します。この際、①どの趣旨を②どのように具現化しているか?を必ず考えます。こうすることによって、原告適格の保護利益や裁量判断の他事考慮を基礎づける事実の判断枠組み等が頭の中に出来ていきます。

そして、法の要件を具体化したり、手続きを定めた政令・省令を対象となる要件に樹形図として書きます。この際、法の条文から分岐させるのではなく、できる限り要件から分岐させましょう。樹形図に添付書類等がわかるように略語を書き込んでおきます。
この作業により、政省令を法の趣旨から理解できるようになると共に、逆に概括的な法の要件が核心としては何を保護しているかがわかります。例えば、周辺1000メートル以内の地図の添付が要求されていれば、同区域内の環境が具体的な保護利益ですし、特に学校の記載が求められていれば、児童の安全等の文教利益が保護されていると判断できます。ここから原告適格・裁量・法に反しない限りの例外の許容性等、幅広い判断が出来ます。

また、要件該当した場合の、処分等の効果をしっかり確認します。処分性の判断に必要なだけでなく、下位法令や関連法との関係を考える上で非常に重要です。
この際に、罰則などの担保規定も確認します。どのように担保されているか?は、そもそもの処分等の効果や保護利益の特定に非常に役に立ちます。

更に、政・省令の細目を定めた規則等の通達も当該政省令から分岐させて樹形図として書きます。この際、必ず政省令から分岐させましょう。法の要件→政省令→通達という階層構造に従って、目的が限定・細目化され、逆方向で法の要件の核心が絞られていくことが意識できます。

次に関連法が問題になります。樹形図は必ず、問題となる処分の根拠法で作り、関連法はその中に埋め込んでいくのが原則です。
その際にはまず、関連法の趣旨目的規定を読み、処分根拠法との「重なり」を確認します
次に各条文について、効果と保護利益の観点から、処分根拠法・政省令の要件にぶら下げます。

上記のような樹形図を書くと(書き終わるとすぐに)、設問の答えはほぼ出ていることに気付くと思います。
効果や担保規定から訴訟類型は自ずと決まり、訴訟要件で考慮すべき要素は個別法からわかっており、そうすると問題文から抽出すべき事実も明確にわかります。
行政実体法についても、要件の検討をしてあるので、枠組みは明確であり、受け皿がしっかりしているので、事実も比較的容易に漏れなく拾えます。

私は本番で行政法の答案構成には40分かかりましたが、その内25分が樹形図作りでした。それだけの価値と効果がある作業だと思います。

なお、書いた後の復習の際は基本書の行政法総論部分をしっかりとチェックしましょう。個別法の解釈・樹形図作りは行政法総論の知識・理論を「使って」する作業であることがわかると思います。

民法演習は「ケースブック要件事実・事実認定」で

民法を苦手にしている司法試験受験生はかなり多いと思います。

苦手な人の原因の大半は実は基礎的知識が不足していることにあります。
したがって、苦手な人は演習に取り組むのと併行して、「基本書の読み方−その2」と「短答の勉強の仕方の基本」 - 司法修習生Higeb’s blogで書いた方法で択一の過去問等を解きながら基本書を読むという作業を地道にやりましょう
 
では、演習には何を使うか?です。過去問に取り組むことは非常に有益な選択肢です。
 
しかし、私はあえて伊藤滋夫・山崎敏彦編「ケースブック要件事実・事実認定 」に取り組むことを強くお薦めします。同書は、比較的長文の問題を、実体法の解釈・論点を要件事実を使って分析し、事実をあてはめて結論を出す、という司法試験民法で問われる一連のプロセスのすべての訓練が出来る、極めて有益な良書です。
特に要件事実の問題と実体法の解釈・論点の片方に偏らず、程よく両方問題になる点は秀逸です。
 
解説も上記プロセスにしたがい、訴訟物を論じ、要件事実を分析し、論点についての解説がなされていて、非常にわかりやすく、叙述の順序が民法答案の思考の順番となるので、答案作成力が非常に高まります。
 
解説でもう1つ特筆すべきは事実の見方が学べることです。当該事案の特殊性はもちろん、判例がどのような事実を背景に判断を下したかに着目して事実を分析していく記述は、事案を読み解き、適切な法律構成をするという法律学の基礎の基礎をしっかりと身につけさせてくれます
特に、「暗記した要件事実に問題文の事実をそのままあてはめる」というタイプの答案を書く人=それなりに書いているのに点が悪い人、は同書 に取り組む効用はかなり高いと思います。
 
 
また、同書 は解説が付されている問題だけでも30問程度あり、それなりにボリュームがある代わりに民法の全分野を一通り網羅している点も非常に有益です。民法は範囲が広いため、全分野が得意な人はかなり少なく、不得意分野が複数ある人がほとんどです。本試験で不得意分野が出題されて、致命的な失点をすることは避けなければなりません。
論点等が異なっても、全分野を書いたことがあれば、思考枠組みや事実の見方がそれなりに出来ているので、手堅い答案が書くことが出来ます。
 
上記のような効用を最大限得るために、パソコンを使ってもいいので、是非、全問フルスケールの答案を書いてみることを強くお薦めします。
 
また、答案を検討する際は必ず、①岡口・要件事実マニュアル <1><2> で要件事実をチェックし、②基本書で実体法の基礎事項と論点の解説をチェックしましょう
解説だけを読むよりも、はるかに理解が進みます。
 
なお、ローによっては問題集を使った自主ゼミを教員が指導してくれるところもあると思います(私の出身ローはそれが盛んで、参加してものすごく実力が付きました)。
そういう場合、松岡・山本・潮見「民法総合・事例演習 第2版 」(いわゆる「京大本」)を使うことが多いと思います。2年生であればそれもいいと思いますが、3年生前の春休み以降であれば、是非、ケースブック要件事実・事実認定 の練習問題を使うことをお薦めします。解説は付いていませんが、司法試験に直結した良問が多く、取り組む価値が高いので、指導者がいる勉強会には最適です。
 
 
 

民訴法演習の第1段階(参考書・演習書)

前にも書きましたが、民訴法は司法試験で最も発展的な内容が出題されます。すなわち、基礎事項から説き起こして、それまで考えたことがなかった問題を何とか論じなければいけません。

 
したがって、演習についても①基礎事項を深く考え、理解すること、②基礎から発展へという思考に慣れること、の2点が出発点になります。
 
そのためには、過去問の前に、三木浩一・山本和彦編「ロースクール民事訴訟法 第4版 」に取り組むことが非常に有益です。同書はローの演習講義を想定して作られた本ですが、司法試験の民訴法対策に丁度よいレベルと網羅性を備えています。
以下に、留意点等を書きます。
 
第1に、まずは高橋宏志重点講義民事訴訟法(上) 第2版補訂版 」「同(下) 」のみを参考に解いて見ましょう。答え自体は、設問の後に付されている参考資料を読めば答えがわかります。しかし、高橋・重点講義のみで解くことで基礎事項の深い理解とそれからの説き起こしが身につきます。高橋・重点講義が基礎事項の解説に厚く、そこからの鋭い問題意識に基づいて書かれているからです。
また、9割以上の設問が高橋・重点講義のみで十分な解答と理解がえられます(該当箇所は参考に挙がっている判例を、判例索引で辿るとあまり苦労なく特定できます。)。わからなければ、参考資料を読めば解答はわかり、そこから重点講義をチェックしてもいいので、それほど負担にはなりません。
 
 
この過程で高橋・重点講義<上> の本文と主な(注)を読み込むことになり、同書の問題意識や民訴法の思考方法が身につきます
 
第2に、高橋・重点講義<上>同(下) 」 が判例と異なる見解を採っている場合(明示されていることがほとんどです)には、藤田広美「講義 民事訴訟 第3版 」「解析 民事訴訟 第2版 」を使って、判例・実務の取り扱いをチェックしておきましょう。高橋・重点講義は、判例への意識が高いので、判例の考え方も解説されています。しかし、やはり実務・判例に則した説明がなされている、藤田・講義、解析でチェックし、高橋・重点講義と読み比べると理解が非常に深まります。
 
なお、藤田・解析 については、基本書・参考書に私は挙げていません。これは、高橋・重点講義の方が司法試験向きであり、かつ、取り組むのに骨が折れるので、勉強のボリュームを考えて薦めていないだけです。
良書であることに疑いはなく、特に高橋・重点講義が肌に合わない人には必須の書籍です。高橋・重点講義の使用者も、ロースクール・民訴や過去問に取り組む際に、参考にすることは大いに有益だと思います。
 
第3に、解答は実際に書きましょう。頭で考えただけでは、実は答案には書けないものであることが多いからです。もちろん、パソコンで書いて時間を節約しましょう。
この際、理由付けは端的・簡潔に書く練習をしましょう。理由付けの書き方は、木山泰嗣センスのよい法律文章の書き方にわかりやすく説明されていますが、基本は①形式的理由と②実質的理由付けを一言ずつです。
高橋・重点講義を読めば、長い説明なら書けるようになります(極端には記述をそのまま書けばいい)。しかし、司法試験では、事実からの説き起こしや事実の評価あてはめがあるので書くべきことの量が非常に多いです。したがって、理由付けは端的に書けるようになっておく必要があります。
また、端的に書けるということは理解が深まっている証左でもあります。そのレベルまで上げておけば、本番で非常に有利な勝負ができます。
 
第4に、各unitの冒頭設例は、読まなくても設問の解答は可能ですが、民訴法の本試験で問われがちな事例なので、訴訟物の特定・攻撃防御と大島・民事裁判〈上〉 や岡口・要件事実マニュアル 第1巻第2巻 を利用するといいと思います。
 
 
第5に、高橋・重点講義<上>同(下) 」を読んでも、参考資料を読んでもわからないことは、躊躇せず、ローの教員や合格者に質問しましょう。
量もそれなりにある上に、思考方法に慣れる訓練をしている段階で、「自分の冒頭で考える」というのは、机上の空論なので無駄です。時間と労力は無駄にすべきではありません。
 
民訴法については、「書き慣れる」と言うこと以外は、過去問よりもロースクール民訴 に取り組む方が合格に直結すると思うので、がんばってみてください。



 
 

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